名古屋を代表する女優・たかべしげこさん(60)。近年、病気のため舞台に立つ機会が減っていたが、今年4月に女性だけの劇団・オーロール座を立ち上げ、定評ある一人芝居で復帰を遂げた。第2弾となる「新・ワーグナー家の女」では、孤児院育ちながら名門・ワーグナー家に嫁ぎ、ヒトラーと組んだ女性ヴィニフレッド・ワーグナーにふんし「完璧な悪女」を演じる。
舞台「リリアン」や「アイザック・デイネーセン」で数々の賞を受賞した、たかべさんが体に異変を感じたのは10年ほど前。だるさが抜けず、眼球が黄色みを帯び、全国ツアーのさなかに医者に駆け込んだ。病名は「自己免疫性肝炎」。日本人には珍しい難病だった。「病院から劇場に通って3ステージぐらいこなしましたが、これ以上やったら二度と舞台に戻れないと思いました」。
死を覚悟し、「これだけはやっておかなくては」と思ったことが、“臨終のレッスン”。うわ言で妙なことを言わないようにという思いからだった。しかし、その手引として読んだ山田風太郎さんの「人間臨終図鑑」が、生きる力をよみがえらせた。
「キリストもストリッパーも同じページに載っていて、それがなんだかおかしくて。『どうでもいいな』って思ったら、今までのこだわりが取れて楽になりました」と笑いながら振り返る。
今回の舞台「新・ワーグナー家の女」は、ヒトラーを後ろ盾に家を守ろうとしたワーグナー家の嫁・ヴィニフレッドと、彼女を激しく糾弾し、反ナチ闘争に身を投じた実娘・フリーデントのドラマだ。「歴史的な大悪女だけを演じても意味はない。母娘の物語なら芝居になる」。そう直感し、12年前、あこがれの劇作家・福田善之さんに自ら企画を持ち込んだ。
1年後、脚本は完成したものの、今度はたかべさんの体調が悪くなり頓挫。初演(東京)までに5年をかけて脚本に手を加え、ようやく今回、地元でのお披露目となる。「ヴィニフレッドは人前では強気一本で通した女。しかし彼女には逃げるところも帰るところもなく、孤独だったのだと思う。そういう点では、ヒトラーと通じるものがある」。自分の演じる役の内面をこう分析する。
名古屋公演までの長い年月については「でも、10年休むのも悪くないですよ」と驚くほどあっさりした答えが返ってきた。「今できなくても、やれるときが来たらやればいい。やり続けられなければ待てばいい。復帰できる面白さがありますから」。高校2年の時に役者を志し、以来女優業一筋のたかべさんらしい言葉だ。
「不器用なので、自分が女優に向いているなんてまったく思いません。でも、天才だと思っていた役者さんが実は想像を絶する努力をしているのを目の当たりにすると、自分が今まで女優をやっていなかったのではないかとさえ思います。これからはそれを取り戻していきたい」と語る。そんなたかべさんの、女優としての次なる目標は「今まで好んで演じてきた実在の人物ではなく無名の人たちを演じられるようになること」だという。
★「新・ワーグナー家の女」8月3日(火)午後7時開演。名古屋市芸術創造センター。入場料は4000円。問い合わせはオーロール座TEL052・802・3584。