日記にかこまれる平野さん

 「日記に空白ができるのは、自分の過去にぽっかりと穴が空くような気がする」八千代市八千代台南に住む平野仁蔵さん(九六)は、七十七年以上毎日欠かさず日記をつけている。
 尋常小学校時代、夏休み前に、必ず学校から渡されたのが日記帳だった。ページを開くと、上の欄には国語や算数の問題があり、下の欄には日記を書くようになっていた。これが、平野さんが初めて日記と出会ったきっかけだった。

 大正十三年、栃木県から上京し、電気メーカーに就職。翌年から正規の日記帳を買い求め、本格的に日記を付け始めた。以来七十七年以上、一日たりとも欠かしたことはない。たとえ、何日か家を留守にすることがあっても、自宅に戻ってからその日のことを思い出し、日記をつけるほどの徹底ぶりだ。
 苛烈な戦局と比例して国内物資も益々、不自由になって来る。此年はもう日記は買えぬ ものと諦めて居た所、巷の書店にて、偶然にも本日記を見つけ得て求むることが出来た。(昭和二十年某日)
 どんな時代の局面を迎えても、平野さんが日記に対する情熱を失うことはなかった。戦局が悪化の一途をたどっていた終戦前や、深刻な物不足で厳しい生活を強いられた終戦後でも、「自分にとって日記をつけることは自然なことだから」と日記帳を手にするまで、焼け残った文具店やほうぼうの露店を探し回った。「当時の日記帳は、わら半紙を綴じたようなものばかりだった」と嘆くが、「昭和二十五年からは、カバーのついた体裁のいい最高級の日記を使っている」と誇らしそうだ。
 現存する七十四冊の日記を大切に保管している平野さん。「一日の記録の積み重ね」という日記は、明治、大正、昭和、平成と生きる平野さんの人生の軌跡だ。
 現在平野さんは、同市の「女性の日記から学ぶ会」(代表・島利栄子)で、自分と同じ明治生まれの女性の日記を読み解いている。