テレビ「3分クッキング」などでも活躍中の谷部さん。家族のための料理は「たまに」だそうだ

 料理とはおもてなしの心。食べる人の立場に立って、心を込めて作るもの─。佐倉市に住む料理人・谷部金次郎さん(57)がその大切さを学んだのは、26年間宮内庁大膳課での地道な日々の積み重ねからだ。長年、食に携わってきた昭和天皇一代の料理番が大事にしてきた「もてなす心」「待つ心」を語った。
 昭和39年、谷部さんは17歳で昭和天皇・皇后の和食担当である大膳官付厨房第一係に奉職した。両陛下という二人のお客様に365日、1日1回の和食を丁寧に作り、時には儀式用の料理を作ることが仕事だった。意気盛んに入庁したものの、あまりの普通さに拍子抜けし、一方、質素ながらバランスのとれた食事を作る意義深さや難しさを感じながら、研さんを積んだ。
 その経験から、谷部さんは現代の食生活に疑問を投げかける。「忙しくて時間がない」と誰もが安易に口走るが、「われわれのおふくろの時代を思い出してほしい」と。
 その時代、女性のほとんどは専業主婦だったが、子だくさんなうえ、掃除機や洗濯機、炊飯器などの家電もなかった。それに比べれば、はるかに時間があるのではないか。現代人はいつも慌ただしく、何かに追い立てられるようになってしまった。携帯電話もその原因のひとつだろう。「ひとつ便利なものを手に入れるのと同時に、わたしたちはひとつの文化を失っていく」。非常勤講師を務めるくらしき作陽大学で、よく学生に言う言葉だ。手軽でスピーディーなコミュニケーション手段としては最高だが、瞬時に伝える必要のないことまでせっせとメールを打ち、自分を忙しくさせていないだろうか。
 手紙やはがきなら、便せんや文字に自分らしさと心を託せるうえ、待つ楽しみをはぐくんでくれる。料理も同じだ。

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 巡ってくる季節を待って、旬のものを調理する。そしてひと手間かける。「ひと手間とはもてなしの心」で、ぜいたくな食材や手の込んだ調理法を指すのではなく、だし汁をきちんととったり、丁寧にうらごししたり、庭で採れた野菜を使ってみたり、ということだ。徐々にいいにおいが漂いはじめ、だんだんおなかもすいてくる。そこにはインスタント食品やファストフードにはない、おいしさが生まれてくる。
 「わくわくさせながら、待たせることもサービスではないか」と、谷部さんは著書「昭和天皇と鰻茶漬」(河出書房新社)でいう。
料理教室や講演会も
 食事は「生きること」でもある。人間は最期の最期まで食べなければならない。それは現在顧問として携わっている有料老人ホーム「佐倉ゆうゆうの里」の現場でも痛感する。大きすぎて食べにくいものは刻み、次の段階としてペースト状にするが、それでも経口摂取している人は元気だという。口から食べることは、それほど大事なことだ。
 食の重要性を教えてくれた大膳課は、昭和天皇崩御を区切りに、平成元年退官した。「お仕えするのは昭和天皇おひとりのみ」という自らの意思とはいえ、途方に暮れた日からはや14年余り。
 自宅で開く料理教室や講演などで、「今後も食の大切さともてなしの心を伝えていきたい」と語る。