人間には「愛」が大切だと加藤さん。「花や小さな虫を眺めていると、しゃべってくる」という言葉が、読む人の心に深く入り込む

 各務原市在住の加藤としえさん(54)は、30年以上にわたって多くの人に希望や安らぎを与え続けている書絵詩作家。人間味に満ちた加藤さんの作品や、生き方に心を動かされたファンは、いまや全国に広がる。来春に花フェスタ記念公園(可児市)で開催される「花フェスタ2005ぎふ」では、音楽とのコラボレーションで即興制作を披露するという加藤さんに話を伺った。
 ある日の午前。加藤さんの自宅1階にある「としえとみんなのあとりえ」を訪れると、5人の女性たちがゆったりとした面持ちで筆を走らせていた。1人につき月1回の“絵たより”教室。正月前ということで、それぞれが加藤さんの絵を手本に、ツバキや「酉(とり)」の絵を描いている。
 教室とはいえ、雰囲気は極めて和やか。「上手に、きれいに書くことが目的ではない。自由に楽しんで描いてほしい」という加藤さんの思いが、空間全体を包み込んでいるようだ。生徒さんも「随分スマートな鳥になっちゃったわ」などと笑いながら、楽しんで描いている。
 「ここで絵たよりを書いているときの生徒さんの顔は、まるで童心に帰った子どものよう。身近なものを絵の題材にするので、それまでは気付かなかった細かいことに気が付くようにもなる。そうやって描いていくうちに、だんだんと心が優しくなるの。例えば、タンポポを描いた後は、道端に咲くタンポポを踏むことができなくなったり…」と加藤さん。
 月に10数回開かれるこの教室には、周辺地域はもちろん、県外からも多くの人が足を運ぶ。愛知県江南市から通っているという70代の女性は、「月初めにここへ来ると、その後1カ月が穏やかに過ごせる気がする。絵はなかなか上達しないけれど(笑)、先生の話が楽しみ」とその魅力を教えてくれた。
 数年前から絵手紙が人気を集めているが、加藤さんの中ではあくまで“思い”が主役で、絵は脇役。

教室は月に1度だが、次回までの間も互いに絵たよりで心の交流をしているので、1カ月ぶりに会った気がしないとか

“絵たより”でつなぐ心のキャッチボール
 「手紙はコンクールのためのものではなく、心と心を結び合うためのもの。絵たよりは“ラブレター”」だと語る。加藤さんの下には、教室の生徒さんやファンなどから毎日20〜30通の絵たよりが届く。その1枚1枚に、いとおしそうな表情で目を通す加藤さん。「私のことを思って書いてくれるのだから本当にうれしい」と微笑む。驚くべきことに、加藤さんは30数年間、すべての便りに毎日返事を出し続けている。時には「そんな大変なこと、やめたら」と周囲の人に言われたこともある。それでもやめなかったのは、絵たよりを通して自分が愛されている幸せを日々確信しているから。「自分が幸せにあふれたら、他の人にも幸せを与えたくなるもの」
 「あとりえ」には、加藤さんがこれまでに書いた書や絵たよりもたくさん展示されている。男性的な力強さ、女性的な優しさ、繊細さ…作品によって異なる表情は、おそらく加藤さんがそれらを書いたときの心の内。言ってしまえば、決して平たんな道のりではなかった加藤さんの人生そのものなのだろう。
 時折、個展などで加藤さんの作品を見て感動した人や、「あとりえ」の存在を聞きつけた人が訪れる。そして、しばし現実を忘れ、人によっては心にためていたことを自ら吐き出して、また現実の世界へ戻って行く。それも、自然体で書かれた作品と季節の草花に、“あるがまま”をよしとする波動があるからではないだろうか。
 末期がんの男性が訪ねてきて、文字通り心を癒していったこともあった。「会えてよかった」─最後の言葉が今もしっかりと胸に残っている。自分を必要としている人がいる、ここに来て救われる人がいることを何度も実感した。
 「手書きの絵たよりには血が流れている。書いた人の人間性や歴史がにじみ出る」
 そう語る加藤さんは、これからも作品を通して、心のよりどころを求めている人にそっと手を差し伸べていく。
【としえとみんなのあとりえ】教室や来館の問い合わせはTEL 0583・83・5940まで。人数が集まれば、出張教室も可能(要相談)。