今や商店街のシンボル深谷シネマ
 深谷市の仲町商店街に老若男女問わない、憩いの場所がある。「深谷シネマ チネ・フェリーチェ」は市内三〇年ぶりに復活した待望の映画館。従業員がたった二人、座席が五〇席というアットホームな雰囲気の映画館は、商店街を訪れる多くの人達の温もりあふれる場所だ。「市民と共に映画が楽しめる環境を作るのが夢だった」と語るのは事務局代表の竹石研二さん(五五)。一日四回の上映には今日も、近郊の市や町から多くの人が訪れている。
 竹石さんは五〇歳を機に勤めていた会社を辞めた。理由はただ一つ。「人生で後悔を残したくない」―。東京、墨田区出身の竹石さん。小さい頃は真っ暗になるまで原っぱで遊んだという。毎日泥だらけになり、訪れた地元の商店街。活気ある声、人々の笑顔、そして下町の人情…。「あの商店街の風景が、今でも自分の原点」竹石さんはしみじみと話す。
  二十一年前に移り住んだのが、奥さんの実家のある深谷市。しかし、当時の商店街は閑古鳥の鳴く、寂しい街となっていた。若い頃、日活の児童映画企画部門で仕事をしていた竹石さん。シャッター街を目の当たりにし、「自分の一番大好きな映画を通 じて、この商店街に元気を呼び戻そう」強く心に誓ったという。自身もちょうど節目の五〇歳を迎えた時、脱サラを決意。新たな夢に向かっての挑戦が始まった。
 平成十一年三月二十六日、「県北にミニシアターを 市民の会」を設立。さまざまな紆余曲折を経て平成十四年七月二七日、念願の深谷シネマをオープンさせた。店舗は深谷商工会議所が推進する「深谷TMO構想」の空き店舗対策事業の一環として、銀行跡の空き店舗を活用。銀行ならではの大きな金庫は映写 室に大変身しているなど、館内は今でも銀行の面影が残っている。初の上映作品は「山の郵便配達」。三週間で八百十一人のお客さんが訪れた。それ以降も「長崎ぶらぶら節」は四百七十六人、「千年の恋」は三百七十九人とオープン連日、多くのお客さんで賑わった。作品は約二週間に一本のペースで上映。会員にも六月末現在で約四九〇〇人が登録されている。
 最も多く訪れるのは中高年齢の女性だとか。「映画館の隣りにはお団子屋さんもあり、高齢者も一日中映画館で楽しめる」と竹石さん。竹石さんの親しみある人柄とアットホームな雰囲気が絶えず多くの常連客を呼んでいる。「映画のフィルムは一人一人の人生に合わせて残っている。だから多くの人を惹きつけるのでしょうね」。懐かしい映画に触れ、青春時代の昔話に花を咲かせる高齢者も後を絶たない。「また来るからね」「楽しみにしているよ」。お客さんからの一言が、何よりも嬉しい励みだと竹石さんは笑顔で話す。
館内のアンケートを見ると、多くの声が寄せられている。「昭和十三年に新宿松竹で見た当時を思い出して懐かしくなった」「懐かしくて、ほんわり温かい気持ちになった」「涙が何度もあふれて止まらなかった」…。映画館の名称にもなっている「チネ・フェリーチェ」とはイタリア語で幸せな映画の意味。深谷シネマには名画だけでなく、懐かしさや温かさなど、たくさんの幸せにも触れ合うことができる。上映は一日四回。料金は一般 1000円。TEL048・551・4592 深谷シネマ チネ・フェリーチェ(JR高崎線深谷駅より徒歩5分)