趣味は乗馬という藤井さん。
「休みの日には2時間かけて
奈良の乗馬クラブへ通います」

 シニア女性に人気のワコールの快適肌着「らくラクパートナー」。年齢とともに変化する女性の体をサポートしながら、どこまでも着心地の良さにこだわった同シリーズに、この秋、サポート用品が新しく加わった。介助する側の視点に立った「腰部保護ベルト」と「股関節サポートパンツ」はどのようにして生まれたのか。製品開発を担当したワコール人間科学研究所(京都市)の開発工房・主席研究員の藤井孝子さん(54)に、その経緯と思いを伺った。
女性らしさ、いつまでも
 「人間がおもしろいんです」という藤井さんの職場は、ワコール人間科学研究所。大手下着メーカー・ワコールの心臓部だ。女性の体の変化をとらえ、科学に裏打ちされた製品開発のために昭和39年に設立された。以来40年間、赤ちゃんから高齢者まで約3万5000人以上の女性の体を計測・研究し続けている。特筆すべきは、同じ人を0歳から追跡調査していることだ。
 藤井さんは入社して36年になるが、約20年前から高齢社会を見据え、寝たきりの人用のパジャマや下着を考案していたという。障害を持つアスリートたちと一緒に合宿をしたり、脊椎(せきつい)損傷の人に製品を試着してもらったりする中で、握力が弱くても手が不自由でも着脱できるブラジャーなども開発。「エイドブラ」として、今も多くの愛用者がいる。
 当時は、高齢社会というと寝たきりが増えるだろうという予測だったが、いざその時代になってみると、9割が元気なお年寄りだ。良い方向に予想が外れたことになる。「今は70歳の方でも、私たち中年は…とおっしゃいます。中年の幅も広がったなぁと思いますね」。団塊の世代である藤井さんも、「50歳で中高齢といわれると、腹が立つし(笑)、しっくりこない」。ターゲットは65歳からという「らくラク」の売り場に来るシニア客も、自分用ではなく母親用に、と買っていくケースが多いという。それほど日本の高齢女性の意識は若く、元気になったということだ。
 本格的に高齢者をテーマに研究し始めたのは10年ほど前から。60歳以上の人やそれ以降の年代の女性を研究・調査するために各地の施設を回っていた時、その先々で腰を痛めて辞める介護士が多いという話を聞いた。「日本の介護は施設でも家庭でも、介護する側が頑張ってしまう。介護する側が少し楽になることで、介護を受ける人も気分よくなれるんじゃないかなと思った」のが、サポート用品開発のきっかけだった。
 腰を保護するにはベルトが一番いい。しかし、ベルトは動くとずり上がってしまう。それに、厚みができ、洋服を着た時に太く見えてしまう。さらに苦労したのは、高齢になるとサイズにかなりの個人差があるということだった。ウエストにしても、くびれの位置や曲線が千差万別。これらの点を解決するために、デザイナーと相談しながらベルトを留める部分を上下2つに分け、マジックテープで調整できるようにした。また、背面にも開き部分を作ったことで、背中のカーブに沿わせつつ、前かがみになってもベルトが浮かない設計に。こうして、着用するとかえってくびれが出るという自信作「腰部保護ベルト」が出来上がった。

心と衣服がもたらす“衣療”を

腰部保護ベルト

 「股関節サポートパンツ」も、担当者全員で体験した介助の現場で発想を得た。最も大変だった入浴介助。しゃがみこんだり立ち上がったりする重労働であるうえ、暑さと湿気で目が回りそうだったが、その時、ほとんどの介護士がTシャツにスパッツ姿だったことがヒントに。股関節の骨の一部分である「大転子」をサポートすることで立ち上がりや歩行を楽にする機能と、水分を発散させる素材を採用。そのままでも違和感のないように、できるだけスポーティーなイメージに仕上げた。そのせいか、若い世代の介護士や保母からも注目を集めているという。
 この2つのサポート用品で、藤井さんが最もこだわったのは、どちらも“女性用”だということだ。介護用品というと、パジャマでも水色やクリーム色といった男女兼用の物が多い。でも、「幾つになっても女性だという意識は大切。それが若さや元気につながります」。講演する機会も多いが、必ずこう話す。「施設に行って、おしゃれをしている人はとってもお元気です」。心と衣服がもたらす“衣療”(医療)をこれからも説いていくつもりだ。
 メジャーリーガーのイチロー選手も愛用するスポーツウエアCW−Xは、藤井さんが生みの親だ。衣服が筋肉への働きかけをした最初のウエアだといわれている。自身が研究開発したものがさまざまな形になって世に出て行くことをうれしく、また誇らしく思いながら、「あっと驚くようなものを作り出したい」と、目標を高く掲げる。
 ワコールTEL0120・307・056