信楽(しがらき)焼の陶芸家・神山清子さん(68・滋賀県甲賀郡信楽町)の人生を描いた映画「火火(ひび)」(監督・高橋伴明)が1月、公開される。神山さんは、独自の方法で穴窯(あながま)による自然釉(ゆう)を実現させた女性陶芸家の草分け的存在。息子・賢一さんの白血病発病を機に骨髄バンク設立運動に尽力したことでも知られる。賢一さんとの闘病生活、そしてその死を乗り越える支えとなった陶芸にかける思いとは─。
釉薬(うわぐすり)を一切使わず、器を高温で長時間焼き上げる。すると燃料のまきの灰が溶けて、ガラス質のビードロと呼ばれる深い緑色が器を染める。これが自然釉。古い窯から出てきた陶器のかけらの自然釉に魅せられたのがきっかけで、神山さんの人生が変わる。
神山さんは1936(昭和11)年、長崎県に生まれ、戦時中に滋賀県・信楽町に移る。陶芸の道に進んだのは、結婚して長女・久美子さんと長男・賢一さんを出産してから。信楽という土地柄と夫も陶芸家という環境からすると、自然なことだったという。始めは遊び半分だったが、公募展に入選した28歳ごろから本格的に活動し、自宅の庭に穴窯を作った。
37歳で離婚後、穴窯を作り直して自然釉実現に没頭する。生活は貧しくなり、2人の子供を育てるのに苦労した。「1年間同じ服を着続けたり、学校の給食費が払えなかったりしたこともありました」と神山さん。実用的な陶器を作りながらほそぼそと稼いだ。
当時、女性陶芸家は珍しく、苦労もあった。「30歳を過ぎているし、難しいことに挑戦しているのだから無理だ」と周囲から言われた。「どん底に追い込まれました。でも子供たちもつらかっただろうに、仕事を理解してくれて、言い合いはほとんどしませんでしたね」。失敗の連続だったが、40歳を目前に納得のいく作品ができた。ようやく評価され、全国各地で個展が開催された。
だが、さらなる試練が神山さんを襲う。同じく陶芸家の道を進んでいた賢一さんが29歳で白血病に倒れたのだ。当時、日本に公的骨髄バンクは無く、助かる可能性はほとんどなかった。
しかし、わずかでも助かる方法があるなら、あきらめないと決意した神山さんは、「本人が病気を知らなければ真剣になれない」と迷わず賢一さんに病名を告げる。始めはショックを受けていた賢一さんも、次第に母親の気持ちを察し、骨髄バンク発足を目指して活動を始める。しかし治療にも活動にも費用がかかるなど困難も多く難航した。
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神山さんの作品
【神山清子『火火』作陶展】
2月9日(水)〜15日(火)、銀座松坂屋画廊で開催。
TEL03 ・3572・6064
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骨髄バンク設立にも尽力
途中、症状が良くなって退院した時、賢一さんは天目茶わんを作った。発病前より真剣で、作品もずっと良いものができ、今は大切な形見になっている。
わずかな望みに懸けて親せきからの骨髄移植手術に踏み切るなど、できる限りのことはした。同時期、願いがかなって骨髄移植推進財団が発足したが間に合わなかった。「賢一が後遺症に苦しみながらも、生きようと頑張っているのに、私が泣いてはいけない」と神山さんは笑おうと気張ったが、「息子に『目がつっている』と言われましたね」。看病中も窯をたいた。「陶芸があるから私は大丈夫だよということを表わしたかった。私なりの愛情表現です」
ある日、賢一さんが神山さんにしがみついて「死にたくない」と泣いた。もう自分が生きられないことを悟ってしまったのだ。「跡取りがいなくて申し訳ない」と言い、たくさんの感謝の気持ちを伝えてくれたという。
その3日後、病気が再発した賢一さんは他界した。31歳だった。息を引き取った後、最後の贈り物として子守歌を歌った。病気を知った時はひっくり返って泣いたのに、この時は不思議と泣けなかった。「するべきことはした、もう仕方ないのだと自分に言い聞かせていたのでしょうね」。現在も骨髄バンクのボランティア活動は続けている。「息子を誇りに思っています。作品を残して骨髄バンクのアピールをして“ええかっこ(良い格好)”して死にました。死ぬことは悲しいですが、思い出には楽しさがあります」
映画「火火」の撮影中、賢一役を演じる窪塚俊介が茶わんに釉薬をかけている場面を見て、「まるでそこに本人がいるようで涙が出ました」という神山さん。「今年は賢一の13回忌ということもあって、供養になれば」と映画製作に賛同した。映画に登場する膨大な数の陶器をすべて自分で作るなど、製作に献身的な協力をした。
「陶芸を続けられることが幸せです。作陶している間は自分の世界にこもり、つらいことも忘れられます」。「陶芸があるから強くなれた」と神山さん。命の次に大切な陶芸に燃える心の火は、消えることを知らない。
【映画「火火」】
脚本・監督:高橋伴明、出演:田中裕子、窪塚俊介。
1月下旬、シネスイッチ銀座(TEL03・3561・0707)、新宿武蔵野館(TEL03・3354・5670)ほかで公開。