「『山は高いばかりを貴し』としない。高低に関係なく、どの山も味わいがある」と重廣さん
第2次登山ブームといわれる。百名山などを中心に中高年世代の登山、トレッキングが盛んだ。しかし、基礎的な知識や技術を身に付けて自分に合った登り方をするという基本的なことを抜きにして遭難事故を起こす例も多く、年間1600人を超す遭難者を出している。安全で正しい登山の普及に務める登山家・重廣恒夫さんらが今年度企画する「3県境トレッキング」に参加してみた。第1回は4日、東京・山梨・神奈川3県をまたぐ三国峠(標高985m)へ。約10キロコースに、みぞれ降る中を同行した。
 あいにく朝から雨が降る。集合地・JR上野原駅に8時前に着く。雨の中を歩くのかと思うとちょっと不安な気もしたが、重廣さんは「これぐらいならいいですよ」と言う。登山中止を連絡してきた人は9人。高齢者は取りやめる人が多い。家族から忠告され、大事をとって控えるそうだ。参加者は23人。女性は15人で平均年齢58.6歳。男性は8人で平均年齢69.5歳。女性は元気でいつも参加者は多い。
 駅前からバスに乗って石栃尾神社前まで。境内横の広場でそれぞれ参加者同士の自己紹介、登山のアドバイスと準備体操を入念に済ます。重廣さんは「登山に雨風はつきもの。それに柔軟に対応するのが登山の基本」という。そして雨の中をゆっくり山に入っていった。
 佐野川峠まで約40分上り坂を行く。さらに30〜40分。桜並木と呼ばれる所へ着く。甘草水といわれる泉があるが、この日は水が枯れほとんどない。遠い昔、この泉でのどを潤して休んだという伝説がある。所々に残雪もみられる。雨はみぞれに変わり次第に激しくなってくる。霧も発生して前方がかすむように見える。「気温は1度か2度くらいだ」と同行の友人が推測する。手先と耳が痛いぐらいに寒い。めったに山登りをしない未熟者には息がぜいぜいと苦しい。
登山前の入念な準備運動は忘れずに
GPS(全世界測位システム)は自分の位置を緯度、経度、高度などで知らせてくれるが山中では必ずしもうまく受信できるとは限らない。基本は地図とコンパス。地図を何度も開いて見ることー重廣さんは説明する。
 さらに20分で三国峠へ。生藤山(しょうとうさん)=標高985m=は、3つの国が見渡せる頂だ。数百メートル先にある茅丸(1019m)が最も高い所。ここまでは登りの連続。登山慣れしていない身には息切れして苦しいばかりだった。2年前に熊野古道でへたばっただけに、ここはなんとしても登り切らねばとついていくが楽ではなかった。女性グループはへっちゃららしく、おしゃべりばかりがよく続く。後で聞いたが月に1〜2回は山登りをしているそうでかなり熟達している。頂上・茅丸から40分ほどで尾根沿いに。この辺は苦もなく歩けるが連行峰から下り坂 1時間45分の道のり。みんなの足が幾分速くなったようだ。たちまち差をあけられて姿が見えなくなる。歩き慣れない山道で滑って転んでけがでもすれば、みんなに迷惑なだけ。足を踏ん張るようにして下る。落ち葉が積もった傾斜道はよく滑る。それに山道には倒木が意外に多い。それをくぐったり、またいだり。登山靴G�トレッキングHIが足に食い込むようにしっかりフィットしているので、それだけが頼りだ。寒さを我慢するより足元の方が大事だ。一足歩くごとにギクギクと響くように痛い。「ウサギでなくカメのようにマイペースで歩くこと。ほかの人と競うことはしないように」と重廣さんの最初のアドバイスを守ったつもりだが、柏木野に下りたときは足はがくがくに疲れていた。氷雨の中、バス停脇の満開の桜が見事だった。
重廣さんからのアドバイス
 「1.低い山だからといって甘くみてはいけない。山の高い低いで登山の厳しさが異なることはない。低いところでも甘く見ると遭難することもある2.常に地図を見る習慣をつけること3.防寒用に着替えは十二分に持っていくこと。暑ければ脱ぐ、寒ければ着る。体温調整には気を付けること」
「3県境トレッキング」
 全国の都道府県の3つの県境にまたがる標高1000m前後の山頂にスポットを当て、頂上に至る山路をたどりながら安全で快適なトレッキングを体験しようというもの。今年は18回予定されている。問い合わせはアシックスお客様相談室TEL03・3624・1814
なお、重廣さんは5月から中国、ネパールなどヒマラヤ再訪の登山を企画中。
最近の遭難例 中高年ハイカー30人行方不明
 03年11月26日、雑誌社主催の日帰りツアーで、30人が千葉県君津市から石尊山(348m)〜清澄山(377m)へ向かうハイクで目的地の2キロメートル手前で連絡が途絶えた。16時間後の27日午前6時50分になって安全が確認された。ガイドは3人いたが、分岐点を見落とし、道を間違えたという。携帯電話も無線も通じず、暗くなり野営した。下見と地図の読図力に欠けていたことが原因と思われる。