「写真を撮るなら眼鏡を外さなくちゃね」とはにかむ江戸京子さん

 東京にも国際的な音楽祭を―。夏の大型音楽イベント〈東京の夏〉音楽祭が、ことしも2日から8月7日まで開催している。〈東京の夏〉には毎年世界的な音楽家が集い、希少な演目が組まれることで有名だ。同音楽祭の芸術監督を務めるのはアリオン音楽財団理事長の江戸京子さん(67)。江戸さんはピアニストとして海外で活躍した経験をもとに“本物の音楽とそれを支える世界の懸け橋”となって日夜活動している。
 同音楽祭はことしで20周年を迎えた。
 「日本は海外にも通用する優れた演奏家を生み出していますが、その一方で受け入れる側、聴く側の土壌も耕すべきでは、と思ったのが〈東京の夏〉を始めたきっかけです」
 ピアノ教師の母を持つ江戸さんは、4歳からピアノを始めた。小学生のころから日比谷公会堂に通い、本物の音楽になじんでいた。高校は桐朋学園音楽部門に進学したが、実はピアノは「あまり好きではなかった」そうだ。しかし「親の希望もあって」フランス留学を決意、18歳で渡仏した。「パリはふわーっと受け止めてくれた」と言う。日本は芸を仕込むという感覚だが、パリでは音楽の本当の楽しさを知った。
 パリ国立音楽院卒業後、シカゴ交響楽団と共演するなどピアニストとして活躍。40代の半ばに「演奏家と聴衆の心が通い合う音楽会」を目指しアリオン音楽財団を立ち上げ、〈東京の夏〉ほかさまざまな演奏会を手掛けてきた。
 1985年に第1回〈東京の夏〉を開催し、毎年パリ、ドイツ、イタリアなど特定の地域の音楽を特集していたが、第10回を境にテーマの基準を変えた。「クラシックにこだわることに物足りなさを感じ始めたのですね。東西の壁が崩れるなど時代の変化もありましたし」。以後、文化や人種を越えて新しい関係を作っていく“共創”に重点を置き、神話、映画、儀式などジャンルを問わずにテーマを設定。インドの振付家チャンドラレーカやアメリカの詩人ゲーリー・スナイダーらも招いた。
「音楽への突破口を開いて」
 これまでの20年を振り返って、マダガスカルのバラ民族の治癒儀礼は特に印象深いという。それまで村を出ることすらなかった彼らは、東京で、しかも人前で儀式をすることに緊張し通し。無理もない。そこで「ちょっとお酒など召し上がっていただいて…」リラックスさせ、無事にステージを終えることができたのだそうだ。
 2002年には母校・桐朋の同級生で「優等生ではなかった(笑)」という小澤征爾氏も参加した。江戸さんと小澤氏は元夫婦。「今でも征爾と呼んでいますよ。彼は〈東京の夏〉だからということで、ベルリオーズの幻想交響曲と続編を演奏してくれました。この2曲が続けて演奏されるのはめったになく珍しいことです」
 今回のプログラムではロシアの天才指揮者といわれる、ゲルギエフによるストラビンスキーが注目される。4台のピアノとパーカッション、混声合唱によるバレエ曲「結婚」も、なかなか生では聴くことができない演目だ。どんなアーティストでも、江戸さんが〈東京の夏〉のコンセプトを説明すると、みんな快く出演を承諾するという。
 音楽祭には定年世代の聴衆も多く、「アフタヌーン・コンサート」も中高年に人気だ。しかし、音楽会自体に縁遠いシニアも少なくない。何をきっかけとすればいいのだろうか。
 「演奏家も聴衆も一体となって音楽を共有した、と実感できる演奏会があります。特に高齢の音楽家の場合、若さでは生み出せない成熟した音を出せる人も。一度それを体験すると音楽会への突破口が開けるのでは。せっかく時間がたくさんあるのですから、ぜひもっと音楽に触れていただきたい」
 現在67歳の江戸さん。超多忙なスケジュールだが、毎日1時間のウオーキングは欠かさない。小柄だが、ストライプのジャケットに細身のパンツで包んだ体からはエネルギッシュなオーラを感じさせる。
 「母は89歳になる今も毎日3時間ピアノを弾いています。父(故・江戸英雄元三井不動産社長)も死ぬまで世のため人のために働いていましたね。それを見て育ちましたから、わたしももう少し頑張ろうかな、と思っています」

<東京の夏>音楽祭2004
 第20回となることしは、異なる文化や文明に音楽を通して接し、受け入れることの大切さを考える。
 イラン古典音楽の巨匠ホセイン・アリーザーデー(8日・浜離宮ホール)や、アルジェリアン・ポップス“ライ”(10日・草月ホール)、ゲルギエフ=写真=のストラビンスキー(26日・サントリーホール)、小澤征爾ら世界の巨匠が絶賛した20歳、中野翔太ピアノリサイタル(16日・紀尾井ホール)、同じくピアノの新星と期待される17歳、田村響ピアノリサイタル(21日・紀尾井ホール)など多彩な演目を繰り広げる。
 問い合わせはアリオン音楽財団 TEL03・5465・1233