「老人党宣言をして以来、どこで調べてくるのか激励の電話や手紙が多く来ます」となだいなださん=神奈川県鎌倉市の自宅で

 20日は敬老の日。だけど敬われてばかりもいられない。高齢者も積極的に行動を―。昨年4月にインターネット上で突如として仮想政党「老人党」結成宣言をした作家で精神科医のなだいなださん(75)。高齢者に政治参加を促す老人党宣言から約1年半がたち、7月には参議院選挙が行われたばかり。執筆や講演、環境保護運動と多彩に活動する傍ら、「老人も声を上げよう」と高齢者に行動を呼び掛けてきた。なださんが老人党結成のいきさつなどを“定年世代”に向け語った。。

 昨年4月、ある病院でのこと。なださんは血圧の薬をもらいに内科医を訪ねた。帰り際、窓口で再診料の値上げを告げられる。釈然としないながらも支払い、今度は薬局へ。薬をもらって立ち去ろうとすると、呼び止められ「今まで高齢者は無料だったが、今月から有料になった」との話。
 「そんな記事を読んだような気がするが、国会で大議論があったという記憶はない。こんな大事なことなのに…」。そう考えるとだんだん怒りが込み上げてきた。「なんでほかの人はもっと怒らないのか。日本の老人はおとなし過ぎる。だったら自分が怒ってやる」。その日の夜、「老人党宣言」を書き上げ、自身のホームページ(HP)に公開した。
 「『老人』というと固定観念でひとまとめにされることが多い。『優雅な年金生活をしている』とか。でも実際は、現役世代と同じように金持ちもいれば、ほそぼそと暮らしている人もいる。今、国の政策は、老人に負担を強いている」と憤る。
 「こんなにバカにされて老人は怒らなくていいの? 幸い老人は会社員のようなしがらみもなく自由に行動できる。われわれだって1票を持っているんだから、選挙を通じて、世の中を変えられるのではないか」
HP上で80代から10代が論議
 老人党は、政党を名乗ってはいるものの、党首や党員がいる現実の政党ではなく、あくまでインターネット上にしか存在しない仮想の政党。活動はいたってシンプルだ。興味を持った人がHPにアクセスして自由に意見を戦わせる。そして選挙の時、自分の責任でより良い候補者に投票する。そのための情報交換の場が老人党だと、なださんは説明する。
 老人党を提唱して以来、続々と反響が寄せられた。HPへのアクセス数も日に日に増えていき、1日で3万件を超えたことも。上は80代から下は10代の若者までが活発に議論に加わる。
 「老人はバカにされているという意味と今の世の中を作った責任は自分たちにあるという意味で『老人党』と名付けたが、『未来の老人』として若い世代の参加も大歓迎」

老人党宣言

 なださんは、パソコンができない人にも広く存在を知ってもらおうと昨年10月、「老人党宣言」(筑摩書房・1050円税込み)を出版した。この本には作家の赤瀬川原平氏や永六輔氏らも賛同を寄せた。本の印税はすべてHPの運営費に。運営は、なださんのほか、インターネット上で全国から協力を申し出てきたボランティアが行っている。「パソコンの世界は冷たく人情がないと言う人がいるが、やってみると無償で相談に乗ってくれたり、寄付してくれたりと温かい人が多かった」
 衆院選、参院選と、この1年半の間に2回の大きな選挙があった。なださんの当初の目標は、政権が国民を裏切ったら、国民がすぐに政権を代えられるようにすること。そのための第1段階として2大政党制を掲げてきた。7月の参院選について「思っていたより早く2大政党制に近づいてきた。老人党の主張も含め、時代の流れがそうなってきたのでしょう」と分析する。
 なださんのモットーは“とりあえず主義”だ。理想は理想として置きつつ、完ぺきを求めず何でも「とりあえず」行動してみるということ。老人党も「とりあえず」提唱してみたら徐々に話題になり、協力者も出てきてうまくいくようになってきたという。
 最後に精神科医でもあるなださんは“定年世代”にエールを送る。「定年を迎え、それまでと環境が変わり不安になってしまう人がいる。人間なんだから不安はあって当たり前。そう割り切って、興味のあることを『とりあえず』してみるべき。とにかく思い立ったらすぐに行動すること。誰のものでもない自分の人生なのだから」
 老人党の公式HPは、http://www.6410.jp/