アニメ「サザエさん」の磯野フネ役として、誰もがその声を知る麻生美代子さん(78)。麻生さんは声優としてナレーションや洋画、NHK海外ドラマの吹き替えなどでも活躍している一方、舞台女優という顔も持つ。10月6日(水)から全労済ホール/スペース・ゼロで公演される舞台「ハロルドとモード」では、19歳の少年に愛される80歳の女性を演じる。
「こんなに長く続くとは思わなかった」と麻生さんも言うアニメ「サザエさん」。もう30年以上“おフネさん”を演じている。「今でこそ声優という仕事はあこがれられたりもしますが、昔は劇団員のアルバイトだったんですよ」と麻生さん。麻生さんは学生時代から劇団で活躍していた。
麻生さんの舞台歴は長く、小さい体から発せられるエネルギーには定評がある。1997年からロングランで全国公演されている「煙が目にしみる」では、昨年、岡山市民劇場賞特別賞を受賞した。舞台を作っていく過程の「不安で不安でしょうがない楽しみ」が好きだという。
今回の舞台「ハロルドとモード」は、“自殺実験”を繰り返す19歳の少年ハロルドと不思議な魅力を持つ老婦人モードとの愛を描いた作品。これまでにも幾度となく上演されてきたが、麻生さんにとっては初の演目だ。
「オファーが来た時は驚きました。モード役はずっと夢だったし、いつかはやりたいと思っていたから。実はもう台本も持っていたの。年齢的にもそろそろできるかな、と思っていたところでした」
数年前から知人の紹介で講師を務めている声優学校やフリースクールで普段から若者と触れ合う機会の多い麻生さん。劇中のハロルドという少年も遠い存在ではない。フリースクールに通う不登校の子どもたちは、麻生さんから朗読を習ううちに「自分の感情や思っていることが表に出せるように」なり、人とコミュニケーションが取れるようになっていく。
「ハロルドはだいぶ特殊な子だと思うけど、それでも最近の子は覇気がないな、と思う。それは真夜中にインターネットをやるせいじゃないかしらね。でも劇団員の子は意欲的な子が多いわよ。アルバイトをしてでもやっていくんだ、っていうね」
ハロルドのかたくなな心を変えていくモード。モードの特技は“自由”だ。「モードはめちゃくちゃをやるんだけど、非常に無邪気な人ね。うらやましいですよ」と笑う。
昨年、喜寿を迎えた麻生さんだが、岡山市民劇場でみんなから「ハッピーバースデー美代ちゃん」とお祝いされるまで、「自分の年なんて考えたこともなかった」そうだ。けれど、「年を取ってきて、生きとし生けるものすべてに意味があるんだ、ということが分かってきて、包容力がついてきたように思う」と言う。嫌なこともすぐに忘れてしまうそうだ。日々の生活もおろそかにしない。毎日どんなに忙しくても食事は用意する。地方に泊まりがけで行く場合は、夫のために、日数分の食事も作っていく。
時々ふと「そろそろ死ぬ覚悟をしなくちゃいけないんじゃないかと考えることもある」が、まだまだやりたい夢もある。趣味も多彩でシャンソンや油絵を楽しみ、中でも30年続けているスキューバダイビングは今も時間があれば友達のいるサイパンに行って楽しむ。
この舞台が終わったら、深海5000メートルの未知の世界をかつてないスケールで撮った話題の映画「DEEP BLUE」を見に行くつもり。「昔は映画の鬼で、一度見出すと止まらないのよ。だから最近はセーブしていたんだけど、これは絶対映画館で見るべきよね。7年かけて世界中の海を撮ったんでしょ? 海の中ほど素晴らしい世界はないわ」と瞳を輝かせて語った。
「ハロルドとモード」
自殺未遂を繰り返し、世の中に絶望している退廃的な若者ハロルドと、少女のように快活で好奇心旺盛な老女モードとの恋物語。生きることに何の楽しみもないと思っているハロルドは、モードに出会ってから変わってゆき、ハロルドはついに、モードの80才の誕生日の日、結婚を申し込むことに決めるのだが…。
原作:コリン・ヒギンズ、演出:堤泰之、出演:麻生美代子、西ノ園達大ほか。
10月6日(水)〜11日(月・祝)、全労災ホール/スペース・ゼロ(JR新宿駅徒歩5分)で。マチネ(午後2時開演)、ソワレ(午後7時開演)あり。計7公演。全席指定4800円(税込み)。
申し込み問い合わせはぷれいすTEL03・5468・8113