「多くの人に座禅の良さを知ってもらうことが天命」と話す瀬戸川さん
「只管打坐(しかんたざ)」-ひたすら座ることに第二の人生をささげた人がいる。小田原市に住む瀬戸川勝裕さん(六一)は麻生、秦野、港南署の署長を歴任した元警察官で、定年退職後、仏門に入った異色のキャリアを持つ禅僧。現在は、日々の修行に励む一方、秦野市内をたく鉢に歩き、毎週日曜日には同市の保健福祉センターで座禅の会を催している。「多くの人に座禅を知る機会と場所を提供したい」と話す瀬戸川さんの夢は、たく鉢で得た浄財で、秦野市に座禅道場を建てること。
「座禅は姿勢を正し、身も心も楽にした状態。自然な息遣いを通 して、何ものにもこだわらない自分に気付くことができます」。毎週日曜日に座禅の会を催し、多くの人にその良さを普及することが自分の天命だと話す瀬戸川さん。会はこれまでに二十七回開催し、延べ二百人が参加、好評だ。参加者は「座禅の後は気持ちがいい。頭がすっきりする」と話し、繰り返し参加する人も多い。
瀬戸川さんが僧になる決意をしたのは定年退職する二年前の平成十二年。当時、神奈川県警では警察官の不祥事が続き、信用が失墜。県警はあらゆる対応策を実施し、改善に尽力していた。曹洞宗総持寺の板橋興宗貫首を招いて講演会を開いたのもその一環だったという。しかし、瀬戸川さんにとって板橋貫首との出会いは、その後の人生を大きく変えるきっかけとなる。「禅師の講話を聴いているうちに、身も心も吸い込まれるような気がした」のだという。
その講話に心を打たれたのは、瀬戸川さんが長年心の支えにしてきた教えと重なるものがあったからだ。瀬戸川さんは二十代のころ、警察官としての職務を遂行する上で幾度も修羅場を経験した。心身ともに疲労するなかで、安らぎを求め出会ったのが道元禅師の「正法眼蔵」。「難解だったが、繰り返し読んだ」と話す瀬戸川さんは、「生也全機現 死也全機現」という一節が生きる支えとなり、警察人生のモットーになった。板橋貫首の講話は見事にその一節と符合したという。
泰野市内を托鉢に回る瀬戸川さん
同時に瀬戸川さんは、同じく「正法眼蔵」から、「正師を得ずんば、学ばざるに如かず」という一節が頭をよぎった。これが「縁」だと感じた瀬戸川さんは出家を決意。「本物の人生とは何か。座禅とは、僧とは何か」を見極めたいと強く思ったという。しかし、連れ添ってきた奥さんに承諾を得ようと相談したところ、まずは反対に。定年後は家族旅行でもしながらのんびり暮らす約束をしていたという。それでも瀬戸川さんの熱意に打たれ、奥さんも納得。「尽くしてくれる妻には本当に感謝しています」と瀬戸川さんは神妙に話す。
平成十三年、港南警察署の署長時代に板橋貫首の下、総持寺で得度。良寛さんのように「ただ自然に淡々と何のこだわりもなく生きる」という意味を込めて「愚閑勝裕」という僧名をもらった。翌年、県警を定年退職後、修行のために愛媛県・瑞応寺と福井県・御誕生寺へ。集団生活は警察学校時代の経験から慣れていたが、独特の食事作法には苦労したという。「警察時代には早飯が基本」だったので、覚えるまでは何度も怒られたとか。そして、半年におよぶ修行生活の後、今年三月下山することになった。
秦野市内でたく鉢
浄財で道場建立も
現在、瀬戸川さんは座禅の会を催すとともに、秦野市内をたく鉢に歩いている。これまでに五千軒以上の家々を回った。お茶を用意して待っていた人、食事を提供してくれた人、追いかけて喜捨してくれた人など多くの人から励まされている。「その心は非常に尊くありがたい。不透明な激動の社会において日本人の心を感じます。浄財は将来、誰でも好きな時に座禅ができる道場の建立に役立てたい。達成できないときは、公共機関に寄付し有効に使ってもらえれば」。第二の人生を座禅にささげた瀬戸川さんの思いは果 てしない。
座禅の会は毎週日曜、秦野市保健福祉センターで開催している。時間は午後一時四十分から二時二十分と二時四十分から三時二十分までの二回。座禅終了後には相談なども受け付けている。どちらも無料。問い合わせ・参加希望者は瀬戸川さんまでTEL0465・43・1676