写 真1.虫の顔を描いた自信作を 手に自然保護を訴える石井誠さん
 セミが鳴く、チョウが舞う。今年も暑い夏がやってきた。夏は昆虫たちにとって活動の季節だ。たまには昆虫たちと昆虫がすむ自然に思いをはせるのも一興。横浜市旭区の石井誠さん(七四)は身近にいるセミやハチなど昆虫の顔を描き続けて約二十五年の“昆虫博士”だ。石井さんは「虫の生息はその土地の自然度のバロメーター。虫のすむ環境を守ることが人間の幸せにもつながる」と昆虫の紹介を通 して自然保護の大切さを説いている。
2.石井さんが描いた「オオスズメバチ」のイラスト
石井さんが昆虫に興味を持ったのは中学二年のとき。夏休みの宿題に昆虫の標本を作るため、昆虫採集をしたのがきっかけだ。「作った標本が学校で評価され、校長賞をもらった。以来虫好きに」と石井さん。大学は生物学者になろうと農学部に進学したほど昆虫にのめり込んだ。しかし流通 の仕事にも魅力を感じ、大学卒業後はデパートに就職。好きだった昆虫研究はあくまで趣味として“封印”した。
 仕事に忙殺され、たまの休みにしか昆虫研究ができない生活が長年続いたが、我慢できなくなり、約二十五年前から本格的に昆虫研究を再開。捕った虫の名前を調べるため、顕微鏡で虫の顔をじっくりと観察するうち、それぞれの虫の顔に魅せられるようになった。そこで「虫の顔をイラストにしたら面 白いのでは」と思い立ち、採集した昆虫の顔の細密画を描き始めた。
 石井さんのイラストは画家顔負けの職人芸だ。まず昆虫を愛用のカメラで撮影し、顕微鏡で顔を観察しながら、製図用のペンで細部まできっちりと描きこむ。そして、カラーのサインペンや絵の具で色を塗り、仕上げる。一枚描くのに三、四日はかかるという。虫の顔をほぼ忠実に再現しているが、石井さんは「学術的なイラストではなく、虫独自の雰囲気を重視した絵画」と自らの作品について話す。
 今まで描いたイラストは約六百枚。平成十一年には、絵や写真を交え昆虫の生態を解説した子供向けの本「昆虫採集KIDS」(小学館)を出版。この本はその後、翻訳され中国、そして今年に入って台湾で相次いで出版され好評だ。
 石井さんは虫の魅力について「虫は人類よりもずっと長く生きており、その背景には何億年というストーリーがある。その一匹一匹の物語を想像すると思わず感動してしまう」とうれしそうに語る。
 石井さんが今、一番気掛かりなのは自然環境の破壊だ。ゴルフ場や道路建設によって虫たちの生息する場がどんどんなくなりつつある。「一見ただの草むらでも虫のとっては大密林。生活圏なんです。それがなくなると、虫もいなくなり、虫をエサにする動物もいなくなる。生態系の破壊がそれぞれの生き物に及ぼす影響を考えると心配」と危ぐする。
 ナチュラリストを自称する石井さんの毎日は横浜市内に点在する「市民の森」での昆虫観察が中心だ。日々の観察をまとめた記録はノート十冊以上にも及ぶ。また、石井さんの活動は有名で、市内の小学校などから講演依頼を受けることもしょっちゅうだ。子供たちに昆虫の生態を面 白おかしく紹介しながら、同時に自然の大切さも訴える。「虫の話をすると、子供たちの顔が輝く。その表情が忘れられない」。
 石井さんは現在、「虫の顔彩々」と題した企画を計画中で、自身の研究成果 を広く市民に公開する予定だ。講演などの問い合わせはTEL045・391・3592