川崎市・小国恒朗さん「長生きする励みとなれば」と語る小国さん
 敬老の日に名前が入った手彫りの額をプレゼント−。川崎市川崎区に住む元大工の小国恒朗さん(七一)は、「百歳を迎えようとしている人への励みとなれば」と全国の百歳になるお年寄りに、手彫りの額を無償で贈っている。平成五年に始めて、今年で十年目。これまでに贈った額は四百枚以上に及ぶ。木材の仕入れから加工費、送料までのすべてを自己負担。「見返りは一切求めていない。贈って喜んでもらえるのが私の生きがい」と語る小国さんは、今後も制作の依頼を受け付けている。 小国さんの贈る額は、縦三十センチ、横百センチ、厚さ四・五センチの木の板に、「寿百歳」の文字と相手の名前が彫られている。木材には、高価だが彫刻のしやすいイチョウの木を使用。一枚の額を仕上げるのにかかる時間は、一週間ほどだという。
 「額を贈った人から届くお礼の言葉が何よりもうれしい」と笑顔で話す小国さん。見返りは一切求めないが、贈った記念にもらっている相手の手形も随分たまった。なかには折に触れ、手紙をくれるようになった人も。「自分にしかできないことで、人の励みになれるなら」と小国さんは思いを語る。

 元大工の小国さんが木彫り彫刻を始めたのは、約十一年前。故郷宮城の神社で祖先の古い系譜が彫られた木の板を発見したことがきっかけ。伊達政宗の家臣も務めた「小国」の血族が綿々と彫られているのを目の当たりにし、驚きとともに木彫り彫刻の力強さに魅せられたという。その後、「木彫り彫刻が忘れられない」と一年間悩んだ末、順風満帆だった大工職の引退を決意。工務店の作業所を工房へと改装し、木彫り彫刻の技術を習得することに打ち込んだ。
 開始当初は、祖先の縁続きとなる寺社の看板などを無償で制作・提供していたが、その後、「後世に名を残すものを提供したい」と考え、百歳を迎える人に名前を彫った額を贈ることを発案。息子から「良いことをするなら、見返りを求めてはいけない」との励ましもあり、こちらも無償で提供することを決意した。平成五年に、小国さんの故郷宮城県中田町に住む四人に贈ったのが最初となった。
亡き父への思いも
  その後、百歳を迎えるお年寄りを紹介してもらおうと全国各地の役所に連絡。なかには無償で贈ると話しても、警戒して教えてくれないところも多かったという。今では、小国さんのことが口コミで広がり、制作の依頼も続々と増えた。
 材料費や加工費、送料にいたるまで、小国さんが貯蓄を切り崩して負担している。依頼が増えるにつれ、経費も増加したが、その活動に共感した埼玉 県熊谷市にある材木店会長の吉澤栄二郎氏や大手運送会社などの助力もあって成り立っているという。「自己負担で続けると決めていたが、協力してくれる人たちの気持ちは本当にありがたい」と小国さんは神妙に語る。
 小国さんが手彫りの額を贈るのは、亡き父親への思いもあるという。小国さんは故郷宮城で十五歳から五年間、家計を助けるため奉公に。しかし、苦労した末にためたお金は、浪費癖のあった父親が一人で使い込んでしまったという。耐えかねた小国さんは大工職に弟子入りし、山形、北海道を転々とする。四十七年前、川崎に自分の工務店を構えたが、よそ者の小国さんには最初の十年間ほとんど仕事が入ってこなかった。「つらいときは父親を恨んだこともあった」と小国さんは当時を振り返り話す。
 しかし、その後、辛抱が実を結び、工務店は繁盛。「今となっては父親に感謝している。私が頑張ってこられたのは、父親がいてくれたおかげ。孝行したいが、もう死んでしまった」と小国さんは亡き父親に思いをはせる。
 今年、七十一歳を迎えた小国さん。「八十歳までは、依頼がある限り続けたい」と、無償の思いに限りはない。 問い合わせ・制作依頼は小国さんTEL044・355・3581 工房TEL044・299・4916