始めての外国の地はサンフランシスコ。「今でも一番好きな街です」と言う野崎さん

 10月1日で創業120周年を迎えた日本郵船。「定年」世代あこがれの豪華客船・飛鳥などを所有する商船会社である。飛鳥の船長を12年間務めた野崎利夫(63)さんは、「客船旅行は、仕事人間のリハビリに最適です」と話す。この4月に船長を退任し、現在は日本郵船歴史博物館の館長代理として活躍する野崎さんだが、今後、本当の定年が待っている。予定が何もない時間をいかにして過ごすか―。そのヒントは「積極性」にあると野崎さんは語る。

 東京生まれ、東京育ちの野崎さん。しかし受験勉強だけの高校に嫌気が差し、三重県の鳥羽商船高校へ入学。その後1963(昭和38)年に日本郵船に入社した。横浜には結婚を機に居を構えている。貨物船やタンカーの航海士を務め、93年に客船「飛鳥」の3代目キャプテンに。乗客、クルー(乗組員)合わせて約800人の安全を守ってきた。
 「この10年ほどで日本人は船の時間をうまく使えるようになったと思います」と振り返る野崎さん。飛鳥が走り始めたころは、あり余る時間をどう過ごしていいのか分からず、途方に暮れている人をよく見掛けたという。
 「重役の方だと、朝起きてお迎えの車に乗り、会社では秘書がその日のスケジュールをすべて教えてくれますよね。ところが船の上では、朝何を食べるか、というところから自分で決めなくてはいけませんから」
 往々にして男性はスケジュールを決めかねて妻の判断に委ねる人が多いとか。「そのうちに奥さまからあっち行ってと言われてぶぜんとされている(笑)」。この話を老人ホームでしたところ、場内は大爆笑。所変われど状況は同じということらしい。

船上では積極的に

 船の上では、「積極性がないと退屈します」と野崎さんは言う。これは定年生活にも当てはまる。最近は世界1周する100日間に、ダンスを習得したり、自分の部屋で仲間を集めて俳句をしたりして、時間を有効に使う人も多くなってきた。

 船の上でも、定年後の生活でも夫婦がうまくやっていくには、「互いの行動パターンを邪魔しないこと」というのが野崎さんの考えだ。そのためにはある程度、自分で身の回りのことをすること。かくいう野崎さんも、船を下りれば趣味のヨットを楽しみ、家事もする。暇を持て余したことはないそうだ。
職場を幸せに

職場を幸せに
 飛鳥のリピート率は約6割というから驚く。客の平均年齢は70歳を超える。来年の世界1周もすでに予約はいっぱいだという。その満足度の高さは、野崎さんが常に“ハッピークルー”を心掛けてきたからだろう。働いている人間が幸せであることを第一に心掛けないと、お客さまを楽しませることができないことを、かつて上司だったドイツ人のキャプテンから教わった。
 「20カ国から来るクルーをまとめるのは本当に大変です。国によって習慣や常識が違いますから。しかしある時からサービスのすべてを日本流にすることはない、自分の国のやり方で精一杯やってみろ、と指導してからぐっとクルーの動きが良くなりました。それぞれの国の誇りやプライドを信じて任せたのがよかったのでしょう」
遊び心持って

遊び心持って
 4月に飛鳥の船長を退任し、現在は日本郵船歴史博物館の館長代理を務める野崎さんにも、いずれ定年はやって来る。「仕事をやめたら、ボランティアで子どもたちに海や船のことを教えたい。遊び心を持って楽しんで取り組んだほうが上達するし長続きすることを教えたいですね」と、日に焼けた顔を緩ませた。