|
|
シニアもドラッカーに学ぼう 著作を翻訳した上田惇生さん |
|
|
|
「シニアがドラッカーを読めば、自分の考えと同じだと自信が得られるはず」と上田さん |
今年出版された本の中で、最もよく読まれたのが「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(ダイヤモンド社、岩崎夏海著=以下、「もしドラ」)。出版取次大手のトーハンによると180万部を突破、なおも都内の主要書店でベストテン上位に入っている。ビジネス関連書として異例。何が、ドラッカーブームを呼んだのか。これまでドラッカーのほとんどの著書を翻訳し、本人とも親交があった上田惇生さん(72)に、“もしシニアがドラッカーを読んだら”について話を聞いた。
「もしドラ」ブーム、一種の“社会革命”
ピーター・F・ドラッカー(1909〜2005)というと、難しい経営の話を書く人という印象が強い。しかし、上田さんは、「国や組織、それに個人のマネジメントを教えてくれる。読まなきゃ損ですよ」と話す。この3つの中で、一人ひとりがいかに自分を生かし、生きるかというテーマに関するのが個人のマネジメント。その一番いい方法が、「何をもって覚えられたいか」という言葉を年2回考えることだという。
「何をもって覚えられたいか、というのは魔法の言葉。孫や友人に自分の一生を、何をもって覚えられたいか。わたしはドラッカーを紹介した人として覚えられることで十分」と上田さんは話す。年末に除夜の鐘を聞きながら…など年2回、この言葉を考えて5年もすると、人生が変わってくるという。
1938(昭和13)年埼玉県生まれの上田さんは、経団連会長秘書などを経て現在、ものつくり大学名誉教授。これまで「現代社会最高の哲人」と呼ばれるドラッカーの主要著作ほとんどを翻訳。ドラッカー学会(http://drucker-ws.org)代表を務める。
国、組織、個人のマネジメントを教えてくれる
さて、個人がいかに生きるかについて、ドラッカーが条件として挙げているのは、「所(場所)を得ること」だという。
所を得るには、次の3つのことを知らなければいけないとドラッカーは教える。1つ目は自分の得意なもの(技)、2つ目は得意なやり方、3つ目は自分にとって値打ち(価値)のあるもの—。「2つ目の例は、他人と組んだ方がいいのか、1人でやる方がいいのか、または朝型か、夜型かなど個人によって違うでしょうから」と上田さん。実際ドラッカーもある時、「自分がいる場所ではない」と気付いたことが転機になった。
英国の金融街シティのマーチャントバンク(大口顧客を対象にした銀行)に勤めうまくいっていた時に、その会社を突然辞めたドラッカー。そして、当てもないのに米国に渡った。当時は、世界大恐慌のころ。なぜ、ドラッカーがこうした行動に出たかというと、著名な経済学者のケインズの授業に出たことがきっかけだった。「その時、ケインズが教えているのはお金のことで、周りの学生が勉強しているのもお金のこと。しかし、自分に関心があるのはお金じゃなく人間だということに気付いた」(上田さん)という。
「何をもって覚えられたいか」、年2回考えては…
「いくらお金を残しても自分にとって価値がない」と感じたドラッカーは、米国で本を書くという「所」を得ることで、社会に貢献できた。「高校野球の女子マネジャーがドラッカーを読んで甲子園を目指す」という内容の「もしドラ」が今年最大のベストセラーになるというのは「1つの“社会革命”だと思っています」と上田さん。「わたしはこれを37年待っていたんです。原書が出たのは1973年。ようやく37年たってみんなが気付いてくれた」と喜ぶ。
「もしドラ」につられて、その本のベースとなった上田さん編訳の「マネジメント〈エッセンシャル版〉」(ダイヤモンド社)も売れている。その一番の要因は「世の中、よくならないのは何かがおかしい」とみんなが思い始めたことだと上田さんは言う。「当然のような態度で派遣切りで利益を追求する企業などが世の批判を浴びる中、利益は(企業存続の)条件であるが、目的ではないと教えたドラッカーが見直されているんです」
ドラッカーは引退後の自分の場所を早くから見つけるようアドバイスもしている。歴史上、初めて経験する長寿社会を迎えた日本。シニアがいきいき生きるために、ドラッカーの言葉に耳を傾けては—。 |
| |
|