旅の情報  
安森洞内を案内してくれた
保存会副会長の程内覚さん

 愛媛県の西南部に位置する広見町。周りを鬼ケ城連峰や戸祇御前山(とぎごぜんやま)などの山々に囲まれた山里を、四万十川の支流・広見川が悠々と流れる。人口1万1000人余りのこの小さな町で、町を心から愛してやまない多くの人たちに出会った。
安森洞に夢を託す
 昭和34年、同町小松の安森地区御在所山中腹で鍾乳洞が発見され、町が沸き上がったことがある。全国的に鍾乳洞ブームが起こっていた、昭和30年代初頭。地元の人々は、「この鍾乳洞をぜひとも観光地に育て上げたい」と意気込んだ。さっそく「安森鍾乳洞」と命名し、「安森洞保存会」も結成。発掘作業には地元町民も参加し、町は一丸となったが、洞が小さく、期待された観光資源にはなりえなかった。
 昭和46年、それでもあきらめきれない保存会の人たちは、標高360メートルの樽淵という洞窟(どうくつ)を掘り始めた。「安森鍾乳洞」とは別に、新たに「安森洞」と名付けたその洞を70メートル掘り進めたが、頑強な岩盤に突き当たり、ついに断念したという。10年がたっていたが、その間の地道な活動と熱い思いは「ロマンを掘る男たち」として、マスコミでも広く報道された。「あのころは若かったけんど、今は白髪のもんもおります」と、笑うのは同会の程内覚さん(54)。その場所は、今は「安森洞ロマン亭」になっている。
 保存会は昭和56年、安森洞からわき出る冷水でそうめん流しを始めたのだ。そうめんを食べるあずまやが「ロマン亭」。営業は夏場(6月下旬から8月末)だけだが、あれから24年たった今年の夏、20万人目の客を迎えた。

悠々と流れる広見川水系には
美しい渓谷も

 広見町には「広見川を世界一美しく」という思いで活動している人たちもいる。四万十川の水系で、愛媛県内を流れているのは広見川だけだ。また、2番目に大きな支流として「流域に住む者には責任がある」と言うのは酒井哲夫さん(75)。玉川大学農学部の教授を定年退職して故郷の広見町に戻ったのは、平成8年春だった。“広見川の恵みと自然を未来へ”という活動を10年以上続けていた「源流広見川を守る会」で講演したことをきっかけに、同年10月、“母なる広見川を夢のある川に”との願いを込めて、「広見川夢の会」を結成。酒井さんは会長になった。
 活動は多岐にわたる。年に1〜2回開催する講演会は各方面で環境に関する研究や活動を行っている大学教授などを講師に。その後、酒井さん宅の離れで行う懇親会は生の情報交換ができると、参加者に喜ばれている。
 また、毎年8月には、川の中を走る「四万十川源流広見川上り駅伝大会」を主催。川の堤や河川敷を花いっぱいにしたいと始めたナタネやレンゲの種まき、川の浄化にも役立つコイの稚魚放流は、ともに広見川の風物詩となった。川を美しくするためには、山にも目を配らなければならない。将来を見据えて、ケヤキの植林を推進する活動にも参画している。
 こうした具体的な活動は町民の意識を高め、一方では行政への働き掛けや協力によって、浄化槽が整備されたり、条例が成立したりと、着実に歩を進めている。
 「母なる川、命の川」。酒井さんも、同会事務局長の葛川熊夫さん(70)も、広見川をそう呼ぶ。その思いが日本最後の清流をつくり上げているのだろう。次回は、アユが遡上(そじょう)し、川辺にレンゲが咲き乱れているだろう春に訪れてみたい。
 【問い合わせ】広見町企画調整課商工観光係TEL0895・45・1111