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五色沼湖沼群の一つ、エメラルドグリーンの水面が映える毘沙門沼

 朝寝、朝酒、朝湯が大好きで身上をつぶすほどの「宝の山」とはどんなのだろう? 「うまい酒が飲めるかも」という下心もあって、福島県・裏磐梯へ出掛けた。10月初旬の雨天の2日間で、磐梯山の姿を見ることはかなわなかったが、湖畔と渓谷と高原の彩り豊かな自然が、心の垢(あか)を洗い流してくれた。観光客誘致に力を入れる一方、観光資源である「自然環境」を守ろうという関係者のさまざまな心配りもうれしかった。
神秘的な異空間
五色沼

 都心から直行バスで4時間半、裏磐梯探勝の起点になる五色沼に着いた。もやがかかって見えない磐梯山に向かうとすぐ、エメラルドグリーンと深い青色の水面の毘沙門(びしゃもん)沼が眼前に広がった。神秘的な色合いと静けさの中に吸い込まれ、一瞬異空間に足を踏み入れたかに感じた。晴天なら、荒々しい火口壁の磐梯山が倒影し、より幻想的な光景に誘われるのだろう。
 1888(明治21)年、成層火山の磐梯山(標高1819メートル)が水蒸気爆発を起こし、次峰の小磐梯を高さ約700メートル分も吹き飛ばした。30億トンもの岩石が磐梯山北側の森や渓谷を埋め尽くし、裏磐梯高原をつくり、渓流をせき止めた湖と泥流のくぼ地に無数の沼を誕生させた。
 その一つを眺めているのだが、まるで古代から変わりない風景のようだ。この毘沙門沼のほか青みがかった黄色の深泥(みどろ)沼、澄んだ空色の青沼、七色に変化するという瑠璃(るり)沼などをまとめて「五色沼湖沼群」と呼び、これを巡るコースが裏磐梯の代表的な探勝路だ。
 こけむした巨岩の間に木道が敷かれ、アカマツややミズナラなどの樹林のそこここにアケビやグミが熟れている。この時期、紅葉を始めたのはツタウルシとナナカマドぐらいだったが、カエデ類の紅葉が進むころにも、あるいは新緑の季節、樹間に涼風の吹き抜ける夏にも、それぞれの装いで訪問者を魅了するのだろう。再訪を促されているようだった。
「名水街道」を巡る
デコ平

 デコ平には「自然ふれあい探勝路」と名付けたトレッキングコースが設けられている。翌日、裏磐梯高原北西の西大峰(標高1982メートル)中腹のこのコースを、雨がっぱを着込み、傘をさして散策した。夏休みと紅葉シーズンにも運転されるスキー場のゴンドラで標高1400メートル地点まで上がり、なだらかな坂道と湿原の木道を歩く「のんびりコース」だが、ブナやダケカンバにまつわり付き色づいたツタウルシなど、彩り豊かな森の息づかいを感じることができた。キタゴヨウマツやアオモリトドマツなどに囲まれた湿原では、ツリガネニンジンやカワラナデシコの花が散見され、薄紫色のリンドウが咲き残っていた。
 前日に続いて案内をしてくれたエコガイドの友坂豊さん(54)が「リンドウは『竜胆』と書きます。ものすごく苦い根に強い毒性があります」と説明してくれた。茎の皮をつめ先で傷つけてにおいをかぐと柑橘(かんきつ)類の芳香がするオオバクロモジなど、植物の特徴を次々と紹介。カモシカだろうか、クマザサをかき分けなぎ倒した獣道を指し示してもくれた。
 友坂さんのようなエコガイドが約40人選定されており、2週間前の予約が必要で有料だが、植物や野鳥、地質などの専門的な解説や案内が受けられる。友坂さんは、写真技術を駆使した8枚組みの絵はがきセット「裏磐梯の花」も作っており、人気の土産物になっている。
 「百貫清水」という名水の池を望むことから「名水街道」と銘打ったこの探勝路は、標高約800メートルの裏磐梯高原よりさらに約600メートル高い所を通り、晴天なら雄々しい磐梯山が眺望できる。
 このほか「パステルウオーターの道」の「五色沼自然探勝路」、「巨樹街道」の「雄国せせらぎ探勝路」など、19のトレッキングコースがある。いずれも桧原湖などの湖岸周遊道路を起点として1キロから6キロ、所要時間20分から3時間のコース。「バリアフリーの道」をうたう「裏磐梯野鳥の森探勝路」から、ややハードな磐梯山や西吾妻山(標高2035メートル)の登山道まで、体力や時間に応じたコースが選べる。

桧原湖の湖畔を走る廃てんぷら油燃料のボンネットバス(東都観光バス提供)

名物・森のくまさん
周遊バス

 最も大きな湖沼の桧原湖を周遊するバスが、運行されている。交通博物館入りしていたボンネットバスを譲り受け「森のくまさん」と名付け、年配者には懐かしく、子どもたちにはカッコいい姿を見せる。冬季を除いて1日4回の定時運行で、各トレッキングコースへのアクセス手段になっている。
 このレトロバスは実は最新の燃料で走る。地元の飲食店や旅館などから出る廃食用油を精製したバイオジーゼル油が100%使われている。湖畔道路に揚げ物の香ばしいにおいが立ちこめる。硫黄酸化物や二酸化炭素の排出量が少ない、環境に優しい燃料なのだ。
 このバス会社の親会社の東都観光バスが、都心からの高速直行バス「五色沼号」の運行を、この7月から始めた。池袋を朝8時と9時半に出て4時間半で裏磐梯に着く。帰りは池袋に夕方6時と夜8時に着く便がある。ほかの交通機関より移動ロスが減ったのが売りだ。片道5000円。
 地元では、裏磐梯の豊かな自然を利用していかに集客し、再訪を促すかに腐心している。半面、観光客の増加が自然環境に及ぼすマイナスの効果も無視できない。自然環境を保全するとはいえ、山野の自然に人の手を全く加えないで放置する訳にはいかない。レトロバスの試みも人間の自然に対するささやかなしょく罪行為だろう。

 そば打ち名人の和田文彦さん(65)がホテルのロビーで、更科(さらしな=よくさらしたそば粉)の手打ちそばの実演を見せてくれた。最初に水と湯を交互に少しずつ加えてそば粉を練るのが、小麦粉などのつなぎを使わずに粘りを出すこつだという。夕食に出たこのそばは「裏磐梯の自然の味」そのものだった。
【問い合わせ】福島県北塩原村観光政策課TEL0241・32・2511、裏磐梯観光協会TEL0241・32・2349、東都観光バスTEL03・3987・5781