旅の情報  
「コツは火で包み込むように、瞬時に焼き上げること」と大谷尚さん

 雄大な太平洋を目の前に望む土佐・高知の中土佐町(高知市から南西に約50キロ)。カツオの一本釣りで、全国にその名をはせる漁師町では、カツオに負けじと、とびきり生きのいいおんちゃん、おばちゃんが笑顔で迎えてくれた。

 江戸時代初期に完成されたという伝統の一本釣りは今なお健在だ。深夜に出航し、魚場でナブラ(魚群)を探す。小魚を追う鳥山を双眼鏡の中に見つけたら、イワシをまき、散水。イワシの大群だと錯覚し、興奮するカツオの群れに、すかさずさおを投げ入れる。熟練の漁師なら2〜3秒に1匹を釣り上げる、芸術的ともいえる一本釣り漁法。この技をもって、秋、小型船は土佐沖で脂の乗った戻りカツオを待ち受ける。
 カツオといえばタタキだが、「かつおタタキ体験」(4〜10月、要予約)ができる「黒潮工房」でさっそく焼くだけの「初級コース」(カツオの時価+500円)に挑戦した。指導してくれたのは、副主任の大谷尚さん(46)。その日揚がったばかりのカツオを3枚おろしにして塩をふり、サナと呼ばれる柄の付いた鉄網にのせてもらった。わらを入れた途端に火が燃え盛る。その炎の上にサナをかざし、皮の下に脂がにじんできたら引っくり返す。「身はあぶる程度に」。ほんの2、3分で出来上がった。そして「氷水で締めるより温かいうちにすぐ食べる」。これが、中土佐流の味わい方だ。
 工房の隣には、湯宿「黒潮本陣」が。太平洋を一望できる立地と、土佐しっくい・和紙などを使った風土色の豊かさは、全国有数の人気公共宿。海水を沸かした「潮湯」の露天風呂も珍しい。

活気あふれるレトロな市場

大正4年(1915)、市場周辺一帯の230戸が焼失する大火事が起きた。そのとき大正天皇から当時のお金で350円が復興費として届けられ、感激した町民は町名を大正町と改名した

 土佐の味を満喫したら、町を歩いてみる。目指すは「久礼(くれ)大正町市場」。レトロな看板にどこか懐かしい雰囲気。そこに、おばちゃんたちの日焼けした笑顔があった。聞けば、明治時代半ばに、漁師のおかみさんたちが夫や息子が捕ってきた魚を売るようになったのが、この市場の始まりだとか。これからの季節は、戻りカツオ、タイ、トビウオなどが並ぶ。
 “とれだち”の魚だけでなく、青果、総菜、呉服…とそろい、雑貨屋をのぞけば、草履や包丁の柄など、生活に密着したものばかり。角を曲がった「平成通り」、その向こう側の「昭和通り」も合わせると約50軒がひしめき合う。この道40年のベテランから2代目まで、それぞれが活気を生み出している。
 「漁師は気が荒いから、昔はけんかもし合ったもんです」。そう話す、同市場商店街の副理事長・田中隆博さん(43)から“市場のアーケード内部図”をもらった。見ると、おばちゃんたちの似顔絵入りイラストマップ。でも、お目当ての“彼女”が必ずいるとは限らない。お正月と海がしけた日は定休日であるうえ、体調の良しあしもある。「店ごとに不定休」というわけだ。店開きは午後1時ごろ。
 100メートルほど離れた海から、おばちゃんたちがリヤカーを押しながら準備をする。こんな大らかさと屈託のない笑顔。これが町の魅力に違いない。
 【問い合わせ】中土佐町水産商工課TEL0889・52・2473

カツオがたいひ

オレンジ色のエプロンと三角巾(きん)がユニホーム。「苺シフォンケーキとジャムは全国発送できます」と政岡さん

 ティータイムは、久礼湾に面して建つケーキショップ「風工房」(TEL0889・52・3395)へ。ショップを経営するのは、イチゴ栽培農家の主婦8人のグループ「苺倶楽部」。自ら育てたイチゴを楽しんでもらいたいと、ケーキを作り出した。糖度の高い“さちのか”、大玉の“あすかルビー”は、カツオの頭部を堆肥(たいひ)にしただけあって、味もつやも抜群。
 一番人気の苺ショートケーキ、苺シフォンケーキ、苺チーズケーキなど、地元出身のフードコーディネーターの指導を受けながら、メニューを考案した。開店は約7年前。「農家の主婦の手作りケーキとして定着してきました」と政岡妙さん(48)。