今月の紙面  
6月8日付毎日新聞「余録」が、先日亡くなったアメリカのレーガン元大統領のことを書いている。不朽の名画「カサブランカ」の製作者は当初、主役の「リック」役にレーガン氏の起用を考えていたが、構想はつぶれたという。その内容はともかくとして、書き出しが小生の美学に反するので、ここで料理しておくことにした。

問題の書き出しは、こうである。
「昨夜? そんな昔のことは忘れた」
「今夜? そんな先のことはわからない」
映画「カサブランカ」でのハンフリー・ボガートの決めゼリフである。
が、世が世ならそれはロナルド・レーガンのセリフだったかもしれない。

「余録」氏は、こんな粗雑な引用の仕方で、読者に名場面の粋なせりふを伝えたつもりだろうが、見たこともない読者にとっては、どこが「決めゼリフ」なの?とシラけるばかり。まるでぶち壊しである。「カサブランカ」オタクとしては、とても許せることではない。大切なせりふをこんなふうに軽々しく扱ってもらっては困るのだ。
引用するなら、こうでなければならない。

女「昨夜、どこにいたの?」
男「そんな昔のことは覚えていない」
女「今夜、会ってくれる?」
男「そんな先のことはわからない」

4つのせりふをワンセットにして、初めて、読者に真意が伝わるのだ。それは、ただ単に、男と女の気の利いたせりふのやり取りにとどまらず、戦争に翻弄されて生きる人々の運命をも凝縮しているのである。(斉藤)――6月18日付「記者手帳」より