ぶらり単線・出会いの旅
 

 
早朝からCM撮影のロケ隊でにぎわうホーム
御園生さん
 ゆっくりとカーブして列車が着いたのは、「上総鶴舞駅」。ホームに降り、下り列車を見送ると、遠ざかるオレンジの車体が地中に吸い込まれるように消えていった。
 ブルーの壁と茶色の瓦屋根のコントラストが美しいこの駅は、関東の駅百選(平成十年選定)に選ばれるなど、沿線では一番の人気駅。どこか懐かしさを覚え、「大正時代の開設当初の瓦ぶき駅舎で、田園地帯にマッチした…」という選定理由もうなずける。
 しかし、皮肉にもその翌年に無人駅に。乗降客が少なくなる一方で、平日はドラマやCM撮影の団体が、休日はカメラ好きや鉄道ファンが駅に押し寄せる。この日もロケ隊十人ほどがホームで撮影の打ち合わせをしていた。
 上総鶴舞駅の名物は、駅舎だけではない。構内を囲むように、染井吉野、ボタンザクラ、枝垂れザクラが咲きそろい、春にはホームがピンク色に染まる。百選選定を記念してこのサクラを寄付したのは、駅から徒歩約十分に住む御園生進さん(七五)=元中学校長。誰よりも駅を愛し、発展を願う地元の名士だ。
 「昭和初期は手動の信号があってね。ポールの上に紅白ののぼりが下がり、上り列車が近づくときは赤を、下り列車が近づくときは白をひもでおろして、乗客や運転手に知らせていた」と当時を振り返る。また、御園生さんの両親は運送業を営んでおり、列車を使って炭や薪、米などを列車で運んでいた。自身も通 学で利用するなど、小湊鉄道との縁が深い。「当時は鉄道がなければ、生活は出来なかった。長年お世話になったお礼を込めて」と、サクラ三十本を寄付した。「元々ここ鶴舞町はサクラの名所としても有名。ホームや構内で花見ができたら楽しいでしょう? 人が集まって、ますます駅が活気づくよ」と笑顔を見せる。また、ホーム脇にある発電所跡からは養老渓谷と同じ鉱泉が出ているそうだ。