ぶらり単線・出会いの旅
トトロがいる駅舎は
整理整とんされている
鈴木傳二さん
長いトンネルを抜け、ゆっくりカーブして列車が到着したのは、上総大久保駅。小高い山に囲まれた駅は静かで、ディーゼル車のエンジン音が構内に響き渡る。
駅で迎えてくれたのは、トトロだ。映画『となりのトトロ』の登場人物が、駅舎の壁一面 に描かれている。地元の白鳥小学校の生徒が描いたもので、上総大久保駅は「トトロの住む駅」として有名だ。列車発着時以外は人気がなく、寂しげな駅にトトロはぴったり。無人駅にもかかわらず、構内が整理整とんされているのも、「トトロが見守る駅を荒らすことは出来ない」という乗客の思いからだろうか。
駅前の坂を下ると、真っ赤な大国橋の下を養老川がそうそうと流れている。小さな雑貨屋と郵便局を過ぎ、道を上ること5分。無農薬・化学肥料排除の有機栽培農法を行っている市原市大久保の鈴木傳二さん(66)=写 真右下=を訪ねた。
鈴木さんは「田んぼからとれたものはすべて田んぼに返す」という循環型農法を実践している。きっかけは中学校PTA会長を務めた時。ちょうど校内暴力が問題になっていた時代で、鈴木さんは子供の食生活の悪化が原因ではないかと悩んだ。以来、”食の安全”を心に留め、「安全なお米を食べさせたい」という思いが強くなっていた。5年前から農林水産省や有機農業推進協会が開く検査や認証システムの講演会、セミナーに参加。63歳の時に、経営していたスーパーをたたみ、水田の有機栽培の認定を受けると同時に、「有機農産物生産行程管理者及び格付担当者」のライセンスも、千葉県内で初めて取得した。
アイガモたちも
冬場は農作業はお休み
「祖父の代から畜産を営んでいて、その肥料を田んぼに使っていた。だから、うちは昔から有機農法なんだけれど、平成13年に法制度が変わり、認定を受けない田んぼは”有機栽培”と言えなくなったんだ。その仕組みを知っている人は意外に少ない」と鈴木さん。 水田の一部にはアイガモを放し、害虫駆除を任せている。除草や鶏ふんなどの施肥、苗の育成、収穫など手間はかかる割に、水田2・7ヘクタールからは米100〜200キロほどしかとれない。「なかなか採算は合わない」という。
「将来的に、ここ大久保が有機栽培農法のユートピアになれば」と語る鈴木さんは今後、栽培方法を学びに来る人にボランティアで教えたいと意気込んでいる。