選者 山下和夫
嵯峨野道いく曲がりしつつ乗せくれし人力車夫の若く逞し
  千葉・我孫子市 川上進也
・机などの片付け終えて学校を最後に出でぬ 退職の日を
  東京・足立区 那須 彬
・特攻のわれ存(ながら)えて大陸を拓くとゆきし友は還らず
  埼玉・小川町 浅見庫次
・いつの日か訪いたき華北の戦場へ思い抱きつつ果 せず老いぬ
  埼玉・飯能市 安藤正治
・子等を呼ぶ声のみ聞ゆコスモスの畑中の風冷たくなりぬ
  埼玉・蓮田市 村上治子
 
〈評〉一首目、閑寂な嵯峨野を行く、いく曲がりしつつゆく人力車と、それに乗った作者の情景が見える。作者の眼は斜め上から車夫の姿に羨望として注がれている。それはかつての若く逞しい自身への郷愁となっていく。二首目、永年の職場を去るときの心情が、「最後に出でぬ 」に集約されている。三、四首ともに、戦が人間に残した無惨(むざん)と慙愧(ざんき)。五首目は晩秋の叙情。
 
投稿は、はがきに「定年歌壇」と記入のうえ、短歌二首、住所・氏名・年齢・職業・TELを明記し、〒370-0834 高崎市南町8-7 山下和夫氏宛へお送りください。(編集部)