「テレビ番組『THE夜もヒッパレ』であこがれのポール・アンカと共演できた時はうれしかった」と語る尾藤さん

 エルビス・プレスリーにあこがれ21歳で歌手デビュー、「ロカビリー」といえば誰もがその顔を思い浮かべる尾藤イサオさん(61)。還暦を過ぎてなお芸能界の第一線で活躍する尾藤さんは、新年早々舞台「劇場の神様―極付『丹下左膳』―」に出演する。浮き沈みの激しいこの世界で築き上げたキャリアは40年に。尾藤さんがデビューから現在までを振り返った。
 昭和30年代に青春を過ごした尾藤さんは、当時の若者の例にもれず、ロカビリーのとりこになった。
 「プレスリーがいなければ今の僕はなかった。プレスリーに出会ったのは12、13歳のころで、僕は曲芸の修業中でした。10歳から16歳までの6年間修業していて本当はその後寄席芸人として独立するはずでしたが、どういうわけかぱたっとやめてロカビリーの方へ行ってしまったんです」
 どれくらいプレスリーに入れ込んでいたかというと、「アメリカの大統領にプレスリーがなればいい」と本気で思っていたほどだそうだ。その後ロカビリーの本場アメリカへ渡り、1962(昭和37)年に歌手デビューする。
 しかしやがてビートルズの登場などでロカビリーの波は去っていく。「デビューはしたけど、30を過ぎたらどうなるんだろうなぁという心配は常にありました。その心配が消えていったのは、結婚して子どもが生まれてからです」
 26歳で知り合った夫人との間に長女が生まれたのは32歳の時。2年後、二女も誕生した。今振り返れば、大きな転機はそこだという。子どもができて人生が変わった。守るものを持ったことで開き直ることができた。
絶対に手抜かない
 「歌や芝居は自分の好きな道。だけど子どもができたら自分のやりたいことはできなくなるのではとそれまでは思っていました。芸人としても小さくまとまってしまうのではないか、とか。イメージとしては広げた手のひらをぐっと握って小さく丸くなる感じ。ところが実際は指1本1本の間に何かが埋まって、いつのまにか大きな丸になった、そんな気がします」
 それまで上に伸びることや枝の広がりばかり考えていたのが、気が付いたら幹が太くなっていた、と今になって分かるのだという。
 新年を迎えると、舞台「劇場の神様―極付『丹下左膳』―」の公演が控えている。そのための体力作りも工夫して行っている。「毎日家で小1時間のストレッチと筋トレとウオーキング、ダンベルを3日に1度やっています」。続けるこつは、「来年もこの仕事をしたい」という気持ち。みなさんも旅行でも何でもいいから好きなことを続けたいと思えば健康管理も続くのでは、とアドバイスする。この仕事は代わりがたてられないので健康には特に気を付けて、風邪もずっとひいていない。
 「でも本当は、1年間に2回は風邪をひいたほうがいいそうですよ。常に悪い菌を押さえこんでいると、強い反撃が返ってくると聞きました。コレステロールにしろゼロではだめだし、悪いものも良いものも共存させなくちゃいけないんですよね。難しいですけどね」
 40年の芸能生活で貫いてきたのは、「手抜きの仕事をしない」ということ。「昔はキャバレーなどもよく回りました。そういった酔っぱらった人のいる席やお付き合いの場でも、歌でも芝居でも、丁寧に仕事をするというのを信念にやってきました。積み重ね積み重ねて今があるという感じです」。一つ一つの質問にもしばらく考え込んでから語り出す。ネガティブなことは決して言わないが、どんな時も目の前の仕事に真剣に取り組んできた誠実な人柄がにじみ出ていた。
 還暦を過ぎても今も変わらず“ロカビリー少年”を感じさせる尾藤さん。特に同じ青春を過ごした同世代にはエールを送りたくなる。「定年がなくていいね、とよく言われたけど、僕らは明日どうなるか分からない。でも今はどの仕事も大変だよね。特にサラリーマンは40年近く込んでる電車に乗って毎日会社に通って、娘には『お父さん汚い』、なんて言われたりして(笑)」と、時折2人の娘を持つ父親の顔をのぞかせた。

「劇場の神様―極付『丹下左膳』―」
THEATRE1010
 駆け出しの新人役者の主人公は、舞台「丹下左膳」に出演中。毎日、舞台の無事を祈るふりをして内心は自分の盗癖が出ないことを祈っていた。ところが大部屋で先輩役者にあらぬ疑いをかけられ腹をたてた彼は、先輩の自慢の時計を盗むことを思い立ってしまう。
 劇中劇「丹下左膳」と並行して舞台裏をユーモラスに描く。
 原作=原田宗典、林不忘、脚本&演出=大谷亮介、出演=近藤正臣、岡本健一、尾藤イサオほか。
 2005年1月5日(水)〜23日(日)、シアターセンジュ(JR北千住駅すぐ)。昼公演(午後2時開演)、夜公演(午後7時開演)計20回公演。S席8000円、A席6000円。
問い合わせは同劇場TEL03・5244・1011

定年時代12月号下旬号を見る