丹野美絵子さん |
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相談次々
専門家5人に対策を聞く
金融トラブルが後を絶たない。未公開株やREIT、FXのまがい物、電子マネーを利用した詐欺など新手の手法が登場しては消費者が被害を受けている。なぜ、金融商品のトラブルは多発するのか。そして、トラブルを未然に防ぐ方法とは―。トラブルの実情を探るとともに、専門家に対策を聞いた。
国民生活センターに寄せられた消費者生活相談によると2004年度以降は年間30数万件の相談件数が続いている。
不十分だった法律
この原因について、「政府が『貯蓄から投資へ』の旗を振ったにもかかわらず、“土俵”の地ならしがよくなかったからです」と話すのは㈳全国消費生活相談員協会の丹野美絵子さん。消費生活専門相談員として数多くの消費者からの相談を受けており、同協会の常務理事関東支部長を務める。丹野さんによると、投資に伴う法律などの整備が十分できていなかったから、“荒唐無稽(むけい)のインチキ投資”が横行したというわけである。
「インチキ投資の話はブームに乗じて、これまで投資をしたことがない普通の人に近寄ってくるのが特徴です。REITやFXが登場して注目されるとそれらの “まがいもの”商品や詐欺が現れる。電子マネーまがいの円天事件もありました」と丹野さん。
最近の代表例でも円天、平成電電、近未来通信など数え上げたらきりがないほど。
トラブルはインチキ投資分野だけではない。法整備されている金融分野でも起こっている。国債や社債のデフォルト(債務不履行)、投資信託の無断売買、保険分野における不払い問題などがそうだ。
この背景にあるのが新しい金融・保険商品の爆発的増加である。特に複雑で分かりにくいデリバティブ金融商品の登場がトラブル増加に拍車をかけている。これに対して、一般的な消費者は金融知識が不足した状態にあり、金融商品を選択する基準を持てないまま購入しているのが実態、と丹野さんは指摘する。
“狙われる”退職金
例えば、総額50兆円といわれる団塊世代の退職金。親の世代まではまとまったお金は銀行の定期預金などにしておけば金利もそこそこに高かったからよかった。しかし、超低金利の今、金融に関する教育を受けていない団塊世代はどう運用したらよいのか分からない。ひとまず、振り込まれた銀行に置いておく人が大半だが、「運用の時代」といわれるとあせってしまい、詐欺商法に退職金を注ぎ込んだ人も多く、消費者がババ“”をひく図式にはまってしまうという。
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FP/安田まゆみさん |
複数の意見聞いて
「リスクがなくてもうかる話はありません」と話すのはファイナンシャルプランナー(FP)の安田まゆみさん。金融の基本的知識である金融リテラシー(読み書き、そろばんのたぐい)を持っていないなら投資や運用を考えるのはやめたほうがいいという。「それでもやるのなら金融市場の“エサ”になるだけ。たとえ理解できたとしても即決しないで、“セカンドオピニオン”に相談してみることをおすすめします」。その結果、購入することになっても1つの金融商品にすべてをつぎこまずに分散投資を行うほうがよい、と安田さん。「投資をする前に夫婦で生活設計を立てるといいですよ。50代の夫婦だと年金がいつから、いくらもらえるようになって、いまの資産では足りないので、これからどれだけ増やす必要がある、というふうに」。夫婦間で納得していないとあとでもめる原因になる。
山崎元さん |
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紙に書いて他人に説明
はたして自分が購入を予定している金融商品を理解しているかをチェックするには、「一度、紙に書いて他人に説明してみるといいですよ」と勧めるのは経済評論家の山崎元さん。「支払った代金はどこに回ってどう保管され、運用されるのか、そして利回りとしていくら戻ってくるのかを図にしてみることです。それで完全に理解してないなと思えば買わないこと」。そのうえで、投資話が妥当なものかどうかを判断するには長期金利と比較すればいいとも。
「10年物の国債の金利は新聞に載っていますから見つけやすい。いまは1.8%ていどですが、この金利よりも高い利回りの商品はリスクが大きいと判断したほうがいい。そのリスクを見極めることができればうまい話に乗ることがなくなるのでは…」。よく見かける期間限定や会員限定をうたったキャンペーンでも、なぜ限定なのかを一度、考えてみることだという。「売る側のもうけはどれくらいなのか。その額は納得できるのかにも気を使ってほしい」
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岡本和久さん |
“リスク”は余裕資金で
「ことわざに、“虎穴に入らずんば虎児を得ず”とありますが、リスクをとらないとリターンは得られません」と話すのは投資教育を行っている岡本和久さん。リターンはコントロールできないが、リスクは投資先を分散するなどによりあるていど可能だという。「目先のリターンに惑わされずに、その裏にあるリスクをよく考えてみることです。リスクを承知で投資する場合は、仮にゼロになっても生活に支障がでないような余裕資金をまわすようにしたほうがよい」
手嶋尚幸さん |
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出資法と照合しよう
「いままでの詐欺商法を調べると、出資法に違反しているケースがほとんどです」と話すのはファイナンシャルプランナーの手嶋尚幸さん。「出資法には、出資金の全額、もしくはこれをこえる金額に相当する金銭を支払うべき旨を明示し、または暗黙のうちに示して、出資金の受入をしてはならない、とあります。銀行以外の企業が『これだけもうかる』といって出資をつのってはいけないということ。円天やスイスプライベートファンドなどはこの出資法違反に問われました」
必要な資金把握して
「証券会社でないと株の紹介はできないという最低の知識さえ知らず未公開株にひっかかる人も多い。向こうから良いもうけ話がくることはない、とまず疑ってみることですね」と丹野美絵子さん。「十分に財産があるのにあおられているケースもあります。自分の持っている財産とこれから必要な資金をきちんと把握しているとあおられずにすみます。日本人は総じて預貯金を取り崩すのを嫌う。預貯金を“不動産”の感覚で手を付けず年金だけで暮らしたい、と考える。子孫に美田を残さずに自分の代で資産を上手に使っていくのも一つの選択肢だと思います」
国民生活センター消費生活相談に寄せられた金融トラブル件数
(2008年4月21日現在)
年 |
2004年度 |
2005年度 |
2006年度 |
2007年度 |
金融保険サービス |
160,034 |
163,230 |
175,352 |
160,967 |
生命保険 |
7,523 |
11,535 |
13,157 |
14,467 |
損害保険 |
3,155 |
4,752 |
6,696 |
6,342 |
預貯金・証券等 |
5,690 |
10,243 |
12,287 |
11,228 |
融資サービス |
125,387 |
123,488 |
130,180 |
116,079 |
他の金融関連サービス |
18,063 |
12,924 |
11,005 |
6,351 |
商品先物取引 |
7,368 |
4,719 |
4,563 |
4,368 |
合計 |
327,220 |
330,891 |
353,240 |
319,802 |
※商品先物取引には国内、海外の先物取引、ロコ・ロンドン金取引を含む
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