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田川嘉朗さん |
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正しい遺産評価が大切 机上の計算避け 特例にも注意を
国内で年間100万人余りといわれる死亡者数。そのうち税務署に相続税の申告義務があるケースは、約4万4000〜4万5000件(4.2%)だといわれている。ところがこの中で、「一度納めた相続税の一部が戻ってくるケースが結構ある」ということは意外に知られていない。
相続税の一部が訂正申告や「更正の請求」などで戻ってくることを「相続税の還付(かんぷ)」というが、相続税を専門に扱っている税理士法人レガシィ(千代田区大手町、TEL03・3214・1717、URL:http://legacy.ne.jp/)によると、同社が無料診断を依頼されたもののうち還付されるのは約30%〜40%にもなるという。同社全体で見ると、こうして還付された金額と件数は1997年から今年途中までで207件、計57億1200万円に上る。1件当たり約2759万円が還付された計算になる。
では、どんな場合に還付が認められるのか。「分かりやすいのは、相続される不動産のすぐ近くに墓地があったり、上空に高圧線が通っていたりする場合です」と話すのは、同社社員税理士の田川嘉朗さん。将来、不動産に面した道路が拡幅される計画がある場合も、その一部が建物を建てられないため、都市計画道路予定地ということで評価減の対象になるという。
現地調査が重要
相続税は、所得税や法人税などとは違って、遺産の評価の仕方で申告額が変わる。「財産評価は国税庁の評価通達にのっとって行います。しかし、先の墓地や高圧線の有無は通達には書かれてないが事実上、評価減の要因として認められています。現地や役所に足を運んで調査しないと見逃すことが多い」と田川さん。
遺産の中身は土地や未上場会社の株式、有価証券などさまざま。また、評価通達の内容も毎年のように変わるため遺産評価が過大だったり、過小だったりすることが結構多いという。
相続税に慣れていない税理士だと現地などに足を運ばずに机の上で評価しがちで評価を誤る可能性もある。加えて、申告期限から1年を過ぎると「更正の請求」が認められないから注意が必要だ。
4億円の還付も
同社が扱ったケースで還付が認められた最大のものは、練馬区練馬東のケースで25億7400万円の相続税が21億8000万円に減額された。実に約4億円が戻ってきたことになる。この場合は課税対象額が60億円以上あったというから例外だが、日本で最も多いのが課税対象額1億円〜2億円クラス。しかも、このクラスは相続税がかかるかどうかのライン上でもある。
東村山市のAさんは、不動産を中心に約2億円の財産を相続することになり、知り合いの税理士に頼んで申告し780万円を納税した。その後でAさんは念のためにほかの税理士事務所に申告内容を見てもらったところ、Aさんの相続する不動産には「小規模宅地の特例」が使えることが分かり、税務署に訂正申告を出せば全額戻ってくることになった。
「小規模宅地の特例とは、亡くなった人の家族にとって生活の根拠となるような重要な土地ならば一定の面積、一定の割合で評価を下げることができるというものです」と田川さんは言う。相続される土地に住んでいたり、賃貸収入があったり、同族会社の事務所があったりした場合に認められる特例だ。
嘆願書で交渉も
ところが、「この特例を使うと納税額はゼロになるのに使わないケースは結構ある」(田川さん)という。注意すべきは、被相続人死亡日から10カ月以内ならば「訂正申告」を出すだけでよいが、その期限を過ぎた場合は、申告期限から1年以内なら法令の規定に引っかかっておらず、財産の計算間違いがあった場合のみ「更正の請求」が認められる。払い過ぎの税金を戻してもらう場合、法定申告期限から1年を過ぎ5年以内の人は税務署に「嘆願書」を提出して交渉することになる。
「最初に遺産評価を正しく行うことが大切。それでも遺産評価が間違っていたことが分かれば、(還付を求めるのは)納税者の権利でありあきらめてはいけません」と田川さん。 |
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