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GDP(国内総生産)で中国に抜かれ、世界3位となった日本。森戸さんは「なんとかしなくてはいけない」という危機感から、「まだ若くて働ける」シニアパワーに期待する |
65歳以上の高齢者が増加するのに伴い、シニアのライフスタイルの変化に注目が集まっている。今後、現役として働き続けるシニアが増えてくることも予想される中、「シニアベンチャー」として起業を勧めるのが森戸祐幸さん(70)。自ら第2の創業を経験した森戸さんが説く“シニアの起業家精神”とは—。
「定年=引退」、もったいない!
2005年から15年までの10年間で65歳以上のシニア人口は東京・神奈川・千葉・埼玉の1都3県で合計269万人増加(「都道府県別人口予測」国立社会保障・人口問題研究所07年5月発表)する、と予測されている。また、平均寿命も女性86.44歳、男性79.59歳(09年、厚生労働省)と伸びている。
「日本では65歳以上の増加と現役世代の減少が同時に進行している。これが経済に与える影響は大きい」と「デフレの正体」(角川oneテーマ21)の著者で日本政策投資銀行の藻谷(もたに)浩介さんは話す。
こうした高齢化時代の将来を考えると、シニアの生き方も昔のような「定年イコール引退」ではなく今後、現役を延長する人が増えてくることになりそうだ。すると、シニアになってからの生活をどう過ごすかというのが大きなテーマになる。ベンチャー起業家の森戸さんは、「今こそ、長年蓄積してきたノウハウを生かして起業してみては」と提案する。
「いろんな生き方がある」と前置きしながら森戸さんは、「引退して好きな釣りや登山などに没頭するのも1つの生き方。私も旅行が好きだからよく分かる。しかし、まだエネルギーが余っているような人は起業家として生きる道もある」と話す。森戸さん自身も、引退した後で企業を起こした経験を持つ。
64年に東京理科大学を卒業して大手総合商社の丸紅に入社した森戸さん。脱サラを志し69年に退社した後、技術コンサルタント会社設立を経て、(株)モリテックス(豊島区)を総勢3人、資本金280万円で立ち上げた。その後の第1次石油ショックという苦難をなんとか乗り切り、光ファイバー事業に力を入れるなどして会社は成長軌道に乗り、00年、東証1部に上場した。
創業者として“功なり名を遂げた”森戸さんは03年に63歳で会長となり、社内から選んだ後継者に社長のバトンを渡した。ところがその3年後、社内で内紛が発生し、創業会社から身を引いた。
会社を退いてから、森戸さんはこれまでの人生を振り返った。夏目漱石の「坊っちゃん」のその後を描いた小説(「坊ちゃん物語」ダイヤモンド社)を執筆し、今後の人生についてもじっくりと考えた。
それで得られた結論は、「魅力ある人間でありたい」ということだった。「人間的魅力を引き出すためにはどうすればいいか」と考えた森戸さん。「魅力ある人間にとって最も重要なのはやる気と活力」と思い、「第2のベンチャー」に挑戦することにしたのである。
09年、以前から設立していた会社をユーヴィックス(株)(目黒区)に社名変更し、紫外線技術(UV)や光触媒技術、プラズマ技術を使った新たな市場を開拓していくことに。そしてこのほど光触媒の力で靴やシューズボックスの臭いを分解脱臭したり、冷蔵庫内の脱臭・殺菌などを行う「ミニイオン空気清浄器」(2980円、靴箱用と冷蔵庫用の2種)を開発した。
「現役を続けられる限りは続けていきたい。それは社会から定められるものではないはず」と森戸さん。シニアが現役を続ける、あるいは起業する時に一番大切なことは「柔軟性」だと言う。「私も何でもやってきました。経営者の他にも技術者でもあり、本も書いてきました」と話す森戸さんは、ビー玉から天体まで世の中のあらゆる“玉”についての研究家でもある。
年に数回、大学や公共団体などの要請で講演する度に森戸さんは、「立ちあがれ! シニア」というエールを込めて“シニアベンチャー”による起業を勧めている。
「中国で成長している企業には必ずと言っていいほどシニアの日本人技術者の存在がある。特に、ものづくり分野ではシニアが長年の経験で蓄積してきたノウハウが生かせる」と話す。 |
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