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“もめる相続” さらに増加 三菱UFJ信託銀行・灰谷健司さんに聞く |
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「最近は、相続を受ける定年前後の人たちからの相談が多い」と話す灰谷さん |
相続で家族が争うケースが年々増加している。その背景にあるのが、「自分は相続とは関係がない、という意識だ」と指摘するのが、相続関係に詳しい三菱UFJ信託銀行トラストファイナンシャルプランナーの灰谷健司さん(50)。ほとんどの人が相続とは無関係と思うのは、「まだ自分は元気」、「うちにはたいして財産がない」、「うちの家族は仲がいい」との理由からだという。「相続とは、人々が考えている以上に身近なこと」と話す灰谷さんに、相続争いの実態と争いにならないための対策を聞いた。
無縁と思わないで!
まず実際に、家庭裁判所(家裁)が扱った相続関係の相談件数はどれくらいあるのか。
司法統計年報によると家裁の調停や審判(遺産の分割に関する処分・寄与分を定める処分)の合計件数は2010年で約1万5000件〈グラフ1〉になる。年間死亡者数がざっと100万人なので、その約1.5%にしか過ぎないが…。
「この数字だけをみると、相続でもめるケースは少ないと思うでしょう。しかし、調停や審判にまで至らなかったものの、家庭裁判所に持ち込まれた相続関係の相談件数というのはその10倍以上もあるんです」と灰谷さん。
同じく司法統計年報によると、家裁の相続関係相談件数は約18万件〈グラフ2〉に上り、年間死亡者数の20%近くに相当する。その相談件数は年々、右肩上がりに増加している。
しかも灰谷さんは、相続関係で家族がもめたという家庭はこの相談件数(約18万件)の数倍ある、と推測している。「家庭裁判所に相談するのはかなり深刻なケース。そこまでいかないまでも、相続に関して家族がもめたとか相続がもとでぎくしゃくした関係になるというのはもっと多いはず」だからだ。
また、「うちはたいして財産がない」と思う人についても灰谷さんは次のデータ〈グラフ3〉を示す。財産額別にみた相続争い(認容・調停成立)件数を表したものだが、遺産価額5000万円超が年間2000件水準で横ばいなのに対し、同5000万円以下の件数は増加傾向にあり、10年には6000件に達した。「資産を多く持っている家庭ほど相続でもめていると思いがちですが、実際は逆なんです」と話す。
現状の税制では、遺産価額が5000万円以下だと相続税は1円もかからないが、グラフが示すように、もめる可能性は十分あることが分かる。
では、もめる場合とはどんなケースが多いのか。「キーワードは『分けにくい』ということ。特に預金はそれほど多くなく、主な遺産は自宅という場合がもめやすい」と灰谷さん。しかも、日本では遺産が自宅中心という人が圧倒的に多いという。
日ごろの関係を大事に
そこで重要なのはいきなり相続対策ではなくて、まず、相続でもめる可能性があると知ることだ、と灰谷さん。「その上で本などに掲載された自分とよく似た事例をヒントにどうしたらいいかを考えます。結論的には、家族同士のコミュニケーションが大切」と話す。
ここでいうコミュニケーションとは、具体的にこの遺産を誰に、と決める話し合いのことではない。親と子、もしくは子ども同士が、日ごろから電話などでお互いのことをよく話しているという意味だ。コミュニケーションが密にできているほど、「相続でもめる可能性は低くなる」という。配偶者を含めて家族同士がお互いの性格や財産、収入状況、または困っていることなどが分かっていると、「いざ、相続の件で話し合う時にスムーズにいきやすい」と話す。
相談は、最寄りの信託銀行か公証役場などへ。 |
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