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「介護先進国のスウェーデンに最近、行ってきました。そうしたら、ある介護関係者が高齢者を大切にするという日本の文化を褒めてくれました。日本のような思いで介護をやっていくことが大切なんだ、と言われました」と渡邉さん |
誰もが年を重ねていく中で、「ついのすみか」をどこにするかは人生最後の大きな決断。その有力な選択肢の一つが有料老人ホームだろう。「よく耳にするけれど、有料老人ホームってどんなところ?」と思っている人も多いのでは—。そこで、このほどオープンした介護付有料老人ホーム「ワタミの介護」84棟目の施設、「レストヴィラ草加」を訪ね、「ワタミの介護」の親会社、ワタミ(株)(大田区)会長の渡邉美樹さん(52)に同ホームの特徴などを聞いた。
安心・安全へ“円居”
東京スカイツリー誕生に伴い、東武スカイツリーラインという愛称が付いた東武伊勢崎線。松原団地駅は昭和30年代に巨大公団群が造られ、この駅名となったが現在は、建て替えられた新しい団地が並ぶ。「レストヴィラ草加」は駅前からバスに乗って約7分のところにある。造園業の隣接地で、住宅街の一角に立つ5階建ての建物だ。
6月にオープンしたばかりという建物は新築の香りもみずみずしい。居室数150室は「ワタミの介護」の施設の中でも大きな規模になる。「認知症にしっかりした対応ができるように、1階部分が円居(まどい)というフロアになっているのが特徴の1つなんです」と話すのは渡邉さんだ。
具体的には、ドア周辺のデザインを1室1室変えて入居者が自分の居室を間違えないように工夫しているところ。また、フロア壁には昭和初期を思わせる河川や学校の校舎が描かれた絵を飾る—などである。
「円居フロアはもともとデンマークで開発されたもので、日本ではグループホームに導入されています。認知症の方は昔に戻っていく傾向があります。子どものころのような環境を整えることで生活がしやすくなるように、という思いで導入しました」と渡邉さん。「入居者の介護状態が悪くなっても、安心して利用していただけるように」という考えからだ。これからも、100室を超える大型施設には円居フロアを設ける計画だという。
入居金を抑える
レストヴィラ草加のもう一つの大きな特徴は入居金が350万円から(500万円まで、月額利用料は18万3250円)と低いこと。しかも入居金ゼロ(その場合は月額利用料25万6250円〜)のプランも用意している。
施設の内容は、全室個室で部屋の広さは18.00平方メートルと23.40平方メートルの2種類と標準的。各フロアにはダイニング(食堂)兼機能訓練コーナー、ワタミカフェなどの共用設備も備えている。
「ほかの施設が入居金1000万円ならばわれわれは350万円でできる」と渡邉さん。「この入居金が日本の有料老人ホームの標準になれば」という思いで「350万円〜」という入居金プランを実現したという。
「ワタミの介護」を運営するワタミグループは居酒屋チェーン「居食屋 和民」が始まり。あるきっかけで病院を経営するようになり、そこで渡邉さんは「高齢者の方が本当に幸せじゃないな、という状況を目の当たりにした」と言う。自分たちにできることがあるのでは、と思って調べると当時、有料老人ホームの入居金は2000万円、3000万円が多かった。「われわれが有料老人ホームを運営したら600万円や700万円でできるのでは。しかも、入居者の一番の楽しみであるおいしい食事を作って出すのは得意」と始めたのが「ワタミの介護」だった。約7年前のことである。
渡邉さんが介護事業に参入して最初にやったことは従業員や入居者へのアンケート。従業員には「あなたの両親が介護を受けるような状態になった時にこのホームに入れますか」と聞いてみた。すると、返ってきた答えの9割が「入れない」というものだった。この時、渡邉さんは「従業員100人が100人、自分の親を入れたいというホームにしないといけない」と決意したという。
「4大ゼロ」目指す
そのために目標として掲げたのが「ホームはご入居さまの幸せのためだけにある」という言葉。たとえば、おむつや車いすは介護する側は利用してもらった方が楽だが、介護される側は利用したくないのが本音。「つまり介護する側とされる側の利益は相反する。ならば、介護される側にとってしてほしいことを基準に行動しよう」と決めたのである。それが現在、「4大ゼロ」というスローガンに表現されている。
4大ゼロとは、おむつ、特殊浴、経管食、車いすをゼロにすることを目指すという意味。「自宅にいた時と同じような生活がしたい」「最後まで自分らしい生活がしたい」という入居者の思いをくんで、取り組んでいる。
しかし、実際の介護現場で介護される側がしてほしい、ということを実行するのは簡単ではない。その辺の事情を社長の清水邦晃さん(42)が話す。「渡邉は『できない』というとものすごく怒る。なぜ、できないのかと問い詰められて考えていくと、可能性はゼロではないことに気づくんです。その可能性をもっと広げていこうとして、老人ホームじゃこれは無理、ということを一つ一つ形にしていきました」。この地道な努力が実ってか、今では約8割の従業員が自分の親を「ワタミの介護」に入れたいと答えるようになったという。
ただ、高齢者の暮らし方というのは今後もどんどん変化していく。その中で、「こうしてほしい」ということも変わる。入居者の希望をどうやったら実現できるかと考えて、形にしていくという清水さんら「ワタミの介護」の仕事は、今後もこれで完成ということにはなりそうもない。
政府の「高齢社会白書」2012年版によると、65歳以上の高齢者は2975万人で総人口に占める割合は23.3%となった。60年には高齢化率39.9%に達して約2.5人に1人が高齢者になると予想されている。
高齢者人口が増えていく中で、ワタミグループは今後、どんな戦略で事業を展開しようとしているのか。「介護では有料老人ホームを(高齢者人口の増加に合わせて)もっと増やしていかなければいけません」と渡邉さんは話す。それと同時に、昨年9月、神奈川県相模原市に新規開設したデイサービス(名称:ハッピーデイズ)に力を入れようとしている。
デイサービスとは、介護を必要とする人が入浴や食事など日常生活の介助や機能訓練を昼間の一定時間、専門の施設で受けること。「自宅で生活しながら昼間はわれわれの食事を食べて、リハビリを受けていただきたい」と渡邉さん。
「4大ゼロへの取り組みの次は認知症に対する介護」と目標を定める渡邉さん。円居フロアを取り入れた「レストヴィラ草加」は、「ワタミの介護」にとって今後の施設のあり方を示しているといえそうだ。
ワタミの介護への問い合わせは、フリーコール0120・37・1865 |
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