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定年時代
 
  坂のある街 平成19年5月号  
時とともに変わる風景  清水坂/板橋区

道の両側に木々が茂り中山道の面影を残す清水坂の坂下付近
 
 「はけ」と呼ばれる急斜面が、東西に長く延びる。幾つものわき水が、「はけ」に竹や木々の原生林をつくってきた。幾つもの坂は古くから、「はけ」に住む人々の営みを支えてきた。「おお坂」も、そんな坂のひとつ。坂に面する森の木々が風に揺れる。小さな美術館、森の中のカフェ、せせらぎに沿う遊歩道。見て聴いて味わって…。五感が喜ぶ "古き良き武蔵野" を歩いた。

  「土地の人はなぜそこが『はけ』と呼ばれるかを知らない」

 大岡昇平 (1909〜88) の小説「武蔵野夫人」 (50年) の書き出しである。「武蔵野夫人」は、「はけ」を「峡(はけ)にほかならず…」とするが、小金井市教委によると「崖(がけ)」や「水が "はける" 」に由来するという説もある。

 連雀 (れんじゃく) 通りの騒音を背に、坂に入ると武蔵野だった—。そんな表現が「おお坂」 には似合う。天を突く竹林やケヤキ、シラカシの巨木が、騒音を吸い取ったかのような静けさがある。洋画家の中村研一 (1895〜1967) が戦後移り住み、原生林をそのまま庭にした「美術の森」だ。こう配がきつく車が通る坂を避け、竹林に挟まれた階段状の遊歩道を行き交う人が多い。

 
「ずいぶん雰囲気が変わってしまいました」。清水坂を歩く早川たきさん
 美術の森の下方にある「はけの森美術館」 (TEL042・384・9800)は、裸婦や静物の油彩画など、中村の作品を主に展示する。隣接する住宅には中村の妻で7月、満100歳になる富子さんが住む。「大岡さんもよく遊びに来られました」と柔和な笑顔。「辺りは森ばかりでうっそうとしていました。お手伝いさんがひとりで留守番するのは怖いと言ったぐらい」。近年は住宅が増えたが、まだそこかしこに緑が茂り「今も時々近くを歩きますよ」と話す。

 富子さんと "ご近所仲間" の鴨下栄一さん (91) は「今、はけの専業農家はウチだけ」と笑う。夫妻との親交は深く、中村を「人を地位や身なりで判断しない。気持ちが立派な人でした」と語る。中村は病気で亡くなる前日、「ウチのさい(妻)は都会育ちで何も知らないから頼みますよ」と鴨下さんの手を握りしめた。40年たった今も「忘れることができません」。ジャガイモを袋に入れる手を止めた。

 大岡がこの地に住んだのは戦後の1年足らずだが、「武蔵野夫人」では悲劇的な愛の舞台に「はけ」を選んだ。鴨下さんは「着流しで、ぶらぶら歩いていました。ああして構想を練っていたのでしょうね」と大岡の記憶をたどる。

 小説に出てくる坂は大岡の住まいに面していたムジナ坂といわれる。「はけ」に平行する「はけの道」も主人公たちが歩いた道。美術の森のわき水は南へと流れ、石畳の「はけの小路(こみち)」に涼感を醸す。散策を楽しむ中高年の女性グループや夫婦連れ。美術の森に昨秋開店した「オーブン・ミトン・カフェ」 (TEL042・385・7410)で足を休め、手作りのお菓子やお茶を楽しむ人も目立つ。

 はけの道から少し足を延ばした。幾つものわき水が野川と呼ばれる川をつくり、夏は水遊びの親子連れでにぎわう。新宿から電車で25分の地とは思えない、のどかな光景。悲恋の小説の舞台は今、首都の "オアシス" となり、訪れる人の心を潤している。

 
板橋区が整備した薬師の泉庭園

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