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定年時代
 
  埼玉版 令和元年9月号  
年を重ねても成長できる  女優・中尾ミエさん

6〜7月に上演されたブロードウェーミュージカル「ピピン」で、空中ブランコを使ったアクロバットを披露した中尾さん。「(自宅)近くの公園の雲梯(うんてい)という遊具で練習した。できたのは自信になりました」と話す。「『ザ・デイサービス・ショウ』の皆さんも、体力づくりを含め、自己管理力が素晴らしい。プロデューサーとしては、お願い事をする必要が全くなく、むしろ何かと助けられています(笑)」
ミュージカル「ザ・デイサービス・ショウ」主演
 “新しい高齢者”がロックバンドを結成するミュージカル「ザ・デイサービス・ショウ〜It's Only Rock'n Roll」。その「グランドフィナーレ公演」が10月5日、志木市で行われる。主演に加え、プロデュースも手掛ける中尾ミエさん(73)は、「バンドメンバーの平均年齢は76歳になった」と笑みを見せる。初演時は、「(担当する)楽器は初めてという人もいた」と話すが、「その後の上達は予想をはるかに超えた」。舞台で得た“気付き”を語る。「目標があれば、人は何歳になっても成長できる。高齢者になった私自身も、励まされる思いです」

 正司花江83歳、光枝明彦81歳…。「ザ・デイサービス・ショウ〜It's Only Rock'n Roll」は、デイサービス施設に通う高齢者が、音楽を通して笑顔と輝きを取り戻していく姿を、笑いと共につむぎ出す。「“平均76歳”は、役者の実年齢。施設利用の5人と私です」と、中尾さんは説明する。企画段階では、「ステージ上に理想のデイ(サービス施設)を出現させようと考えた」。2015年から上演を重ね、“プラスアルファの効果”を感じてきた。「構想が実現した上、稽古場も『理想のデイ』のようになった。私より年上の出演者も生き生きと輝いています」

プロデュース2作目
 福岡県小倉市(現・北九州市)に生まれた中尾さんは1961年に芸能界デビュー。62年、「可愛いベイビー」の大ヒットで一躍、「スター」の仲間入りをした。以降は歌と演技を軸としながらも60年近く、分野の枠にとらわれない活動を続けている。

 60代に入った08年、初のプロデュース作品「ヘルパーズ〜あなたがいる風景」を上演した。“介護の今”に正面から向き合いながらも、笑いの要素を織り交ぜたミュージカル。その内容が共感を呼び6年にわたって再演を重ねた。しかし、「ヘルパーズ」を機に、足しげく福祉施設を訪ねるようになった中尾さんは、「正直いって自分が『入りたい』という施設は、なかなか見当たらなかった」と苦笑する。「私自身も老いていく中、理想の施設ができるまで待つ時間はない。『それならまずは高齢者自身の視点に立って、ステージ上につくってみよう』と考えました」

「仕事ができる」は喜び
 「ザ・デイサービス・ショウ」は、「ヘルパーズ」と同様、中尾さんと30年近く音楽活動を共にする山口健一郎の脚本だ。介護福祉士の資格を持つ山口は、音楽・演劇の本業の傍ら、今も介護の仕事に従事する。それだけに、中尾さんは「作品には、現場を知る人間ならではの説得力がある」と歯切れ良い。

 主人公は、中尾さんをモデルにした、往年の大スター・矢沢マリ子。デイサービス施設を慰問したマリ子は、利用者にバンド結成を働き掛ける。「皆さんは若い頃から、プレスリーやビートルズを聞いている“新しい高齢者”。本当に好きな音楽を楽しまない?」。だが、認知症らしい利用者は無反応。メンバー入りを拒む人もいる中、施設の所長は当初、「お年寄りにロックなんて無理」と、にべもない。マリ子の奮闘は徒労になりそうな雲行きとなるが、ある出来事で、一人一人の感情が揺り動かされる—。

 中尾さんは「高齢の人は『仕事ができる』という純粋な喜びを持って芝居に臨む。その意気込みはすごい」と強調する。ベース・ギターの光枝と、77歳でキーボードを担当する初風諄は、初め楽器に関しては完全な初心者だった。それでも2人は特訓を重ね、次第にレパートリーを増やしている。毎年、再演を重ねる中、「演奏中の振り付けも加えさせていただいた」。正司は「かしまし娘」の活動休止から30年以上、ギターをほとんど弾いていなかったが、自ら音楽教室に通ったという。中尾さんは「頑張って『できるようになった』という達成感は、高齢者にとっても活力源。私がしているように、皆さんにも“お年寄りをこき使って”と言いたいです(笑)」。

「3部作完結編」も
 自身を含め出演者は、「みんな健康で、続ける気満々」。それだけに、「今年をフィナーレとするのには、ためらいがあった」と明かす。「ただ、あらためて年齢を考えると、『来年も、再来年も…』と気軽にお願いはできない」。「フィナーレ」を惜しむ声は、早くも各地から届いている。「来年もみんな元気だったら“アンコール公演”も…、迷いますね」と笑みを漏らす。

 近年、中尾さんは高齢者福祉の“新しい流れ”を感じている。「個々の希望を尊重し、地域・世代間交流を進めるなど、私たちがステージで表現してきたデイと共通項のある施設が、各地にできてきている」。かねて「介護・福祉ミュージカル」の3部作構想を抱いている。「日本人の平均寿命の延びも踏まえ、『完結編』も形にしたい。私も老いてなお盛んというか、いい意味で“欲”が出てきました」


©シーエイティプロデュース
「ザ・デイサービス・ショウ2019 〜 It's Only Rock'n Roll」
◆ 埼玉・志木公演 ◆
 10月5日(土)午後1時、志木市民会館パルシティ(東武東上線志木駅徒歩12分)ホールで。
 作・音楽:山口健一郎、演出・振付:本間憲一、プロデュース:中尾ミエ、出演:中尾ミエ、尾藤イサオ、光枝明彦、モト冬樹、正司花江、初風諄ほか。全席指定4800円。チケットスペース Tel.03・3234・9999

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