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  埼玉版 令和2年4月号  
映画の“面白さ” 初主演で体感  俳優・渡辺いっけいさん

コロナウイルスまん延防止のため多くのイベントが中止・延期となっている中、渡辺さんは「僕が出演するはずだった舞台も中止になった」と寂しそうに話す。「(社会にとって)われわれ俳優という仕事はいったい何なのか、見つめ直す機会にはなりますね」
主演映画「いつくしみふかき」近日公開予定
 数あるテレビドラマで主役を引き立てる名バイプレーヤーとして、また、もともと出身の舞台演劇でも活躍を続ける渡辺いっけいさん(57)。近日上映が予定されている映画「いつくしみふかき」では、意外なことに映画初主演。普段映像作品では演じることの少ない悪魔のような役に挑戦し、“怪演”を披露する。「テレビ、舞台の仕事が多い僕にとって、“映画俳優”といわれる人たちが映画を特別視する感覚というのがいまひとつ体感できていなかったのですが、今回初めて主演をやらせていただき、映画の面白さの片りんに触れることができたような気がします。60歳を前にして忘れられない体験ができました」

 この映画は田舎の村を舞台に、父と子の葛藤を描く家族劇。“人間のクズ”を絵に描いたような男、父・広志を演じる渡辺さんと、息子役・遠山雄のダブル主演となっている。「そのおかげか初主演でも気負うことなく芝居に打ち込むことができました。ラッキーでした」

闇の深い役
 普段テレビドラマでは、良き父、良き兄、または中間管理職で板挟みになる苦労人などを演じることが多い渡辺さんと今回の役のギャップは大きいが、「でもそれが監督の狙いだそうですよ。テレビではお目にかかれない僕を出したかったと言っていました(笑)。悪役もそれなりに経験していますが、ここまで闇の深い役は初めてです」と、今回長編映画で初めてメガホンをとる大山晃一郎監督へ全幅の信頼を寄せる。

 渡辺さんは、1962年生まれの愛知県出身。大学時代の学生演劇を皮切りに芝居の世界に飛び込み、92年のNHK連続テレビ小説「ひらり」でヒロインの相手役を好演しブレーク。以後もテレビドラマに欠かせぬ名バイプレーヤーとして活躍を続けている。「じっくり劇をつくりこむ舞台も好きですが、パッと完成形をつくり上げるテレビドラマのタイトでスピーディーな現場のリズムが、その喧噪(けんそう)も含めて大好きで、楽しく仕事をさせていただいてます」

 そんな渡辺さんにとって今回の映画主演は新鮮な体験だったと話す。劇団員全員でつくりあげる舞台はもちろん、時間軸と関係なくぶつ切りで撮影していくテレビドラマでも、役者個人が作品の完成形を想像しそこから逆算、最初から終わりまで矛盾なく役をつくり上げる“貫通行動”が求められる。だが今回の自分が主演する映画に関しては、「これまで脇で出演した映画、舞台、テレビの現場のどれとも違いました。自分が“貫通行動”をとれた自覚がありません(笑)」。

完成品見て驚嘆
 監督との強い信頼関係の上だが、こだわりの強い監督の頭の中にある設計図に準じ、一個一個のシーンを瞬間的に自分で納得しながら演じたと渡辺さん。完成形が全く想像できなかったというが、出来上がったフィルムを見て驚嘆。そこには“計算ずく”ではない自分がいた。

監督の“設計図”に準ずる
 「自分の演技なのにドキュメンタリーを見ているような…、予想もしていない素晴らしいものになっていました。“映画俳優”の皆さんが映画をとても大事にする気持ちの一端をつかめた気がします」

 この映画について渡辺さんは、映画と同様な家庭内不和を抱えている人たちにきっと届くはずと話す。

  「血を分けたがゆえに素直になれない何かがあるけど、それぞれお互いが生きている間に修復しませんか—、という問い掛けにもなっているかと思います」


©映画「いつくしみふかき」製作委員会
「いつくしみふかき」 日本映画
 30年前、母・加代子が進一を出産中に、あろうことか母の実家に盗みに入った父・広志は、村人総出の山狩りの末、“悪魔”として村から追い出される。その後、進一は見も知らぬ父の業を背負わされながら育ち、30歳となっても自分を甘やかす母のもと、仕事も長続きせず一人では何もできない男となっていた。ある日、村で連続空き巣事件が発生。村人たちは、「悪魔の子である進一の犯行に違いない。出ていけ!」と迫り、進一はかつての父を知る牧師のいる教会に駆け込む。そのころ広志は、舎弟を連れて相変わらず人をだまして金を巻き上げていたが、事件を起こし同じ教会に逃げ込んできた。牧師の考えで、進一と広志はお互いを実の親子と知らないまま、共同生活を送ることになる—。自然豊かな長野県飯田市を舞台に、特殊な父と息子の絆を描く家族の物語。

 監督:大山晃一郎、出演:渡辺いっけい、遠山雄、平栗あつみ、榎本桜、こいけけいこ、金田明夫ほか。107分。

 テアトル新宿(Tel.03・3352・1846)ほかで全国順次公開予定。

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