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  横浜・川崎版 平成30年9月号  
“魂の自由” 人生に求めて  エッセイスト・玉村豊男さん

玉村さんは自身を実際主義者(プラグマティスト)と分析。だからこそ、どんな困難にぶつかっても、「この状況で自分に何ができるか」と冷静に考え、克服することができたと話す。「逆に抽象的なものは苦手。実際にあるものにしか興味がないので、絵も写実的だし、文章も小説ではなくエッセーとなりました(笑)」(東御市「ヴィラデスト」で撮影)
長野に移住しワイン造り
 エッセイスト、画家、料理研究家など幅広い分野で活躍してきた玉村豊男さん(72)。さらに現在、異色のワイン企業家として長野県東御(とうみ)市でブドウ畑を耕し、ワインの醸造・販売などを手掛けるほか、同地の地域創生に奔走する毎日を送っている。5日からは田園に暮らす現在のライフスタイルやそれまでの人生にスポットを当てた「田園の快楽 玉村豊男展」が銀座で開かれる。「僕の人生は行き当たりばったりと思われますが、自分としては一貫して“魂の自由”を求め行動してきた結果、今があると思っています。“玉村豊男という生き方”を皆さんにご覧いただき、少しでも『楽しそうだな』と思っていただければうれしいですね」

 都心から約2時間半、約8ヘクタールのブドウ畑とワイナリー(ワイン醸造所)、レストランなどを併せ持つ「ヴィラデスト(VILLA D,EST GARDENFARM AND WINERY)」は、玉村さんが“ついのすみか”として築いた田園リゾート。現在、ここを拠点に執筆やアーティスト活動のほか、農家、企業家として充実した日々を過ごす。「今回の展覧会は自分の集大成。展示では『ヴィラデスト』も一部再現すると聞いています。どんな展覧会になるのか、私も楽しみです」

 玉村さんは1945年、杉並区に住む日本画家の家庭の八男として出生。父親とは早くに死別したが、幼少時から好んで一人で絵ばかり描いていたという。「大家族ゆえ、逆に『一人でいたいな、人とうまく関わらないでどっか隅っこの方で生きられたらいいな』なんてことばかり考えていました(笑)」

 成績は兄弟中で傑出。東大仏文科に進学し、在学中フランス留学を果たす。留学はワインを飲む習慣を身に付けたり、後の人生に大きな影響を与える転機となったが、当時そんなことは思いもよらなかった。「留学先は大学紛争のあおりで授業が行われず、結局遊んでばかりでした」

「小さな喜び、毎日探す」
 帰国後に就職活動。フジテレビに内定するが、なんとそれを蹴ってしまう。「生来の性格で団体行動が苦手。また、人生の先が見えてしまうのが嫌でした。魂を束縛されて安定を得るより、自由が気持ちよかったんです」

 その後は“元祖フリーター”として、留学経験を生かしガイドや通訳、翻訳の仕事を開拓していく。「先の見えないことに挑むという点では、僕の人生はずっとフリーターの延長かもしれません(笑)」

 次いで、文筆業に転身。1977年、32歳でかつての留学体験を基にした「パリ 旅の雑学ノート」(ダイヤモンド社)の出版を皮切りに、旅や料理など自分の興味を引く物事のほか、アクシデントまでエッセーとして発表。ほどなくして売れっ子作家に。ひょんなことから軽井沢に引っ越したのもこのころだ。「田舎暮らしなんて全く考えていませんでしたが、エッセーのネタになればと(笑)」

 しかし好事魔多し。厄年に入った41歳、大病を患う。体は思うように動かず、収入も減少。“人生の後半”に入ったことを自覚せざるを得なかった。そして、「田舎で野菜でもつくって暮らせば生活費も浮くのでは」との妻の提案で現在の東御市へ引っ越すことに。

 農業をやるなら「景色が良いところ」との玉村さんのこだわりで購入した農地はなだらかな斜面。「フランス人ならワインブドウを作るだろうなと思わせる場所でした」。聞けば同地は巨峰の産地。「同じブドウなら…」と専門家には止められたが、フランスのワインブドウを移植。初めての農業を手探りで始め移住から10年余、これが成功し、近隣の企業ワイナリーで自分だけのワインを製造。“田舎暮らしの先達”として注目を浴びた。

 このまま隠居生活をと考えていた玉村さん。だが、取材に来た記者の「素晴らしい人生の終幕ですね」との趣旨の言葉に反発を感じる。「当時58歳の定年前。『人生をまだ決めつけられたくない!先の見えないことに挑みたい!!』というあの感情が頭をもたげたのです」

ワイン産業育成に夢
 玉村さんはまず、地元で頓挫した酒造メーカーのワイナリー計画を一個人で継承。それから約10年間。農場の拡張やワイナリー開設を経て、日本ワインコンクールで最高金賞受賞を成し遂げる。そして2013年、東御市も含めた長野県東・北部は小規模ワイナリーの集積で、日本ワイン産業の一大拠点になるはずと、「千曲川ワインバレー」構想を提唱。同好の士や地元の人々、行政をも巻き込み農業改革、地域創生へ歩を進めたのだ。「人の間に率先して入ることを苦にしてきましたが、ワインは一人で飲むものではなく、数人で囲み楽しむもの。僕がワインを造り始めてから、この構想に至ったのは必然かもしれません」

 日本のワイン産業躍進へ、次世代につなぐべく、「これからの5年が一番大事」と熱く語る玉村さん。一方その体は約30年前の大病以来、肝炎、がんなどにさいなまれ続け、闘病の半生を送ってきた。だが、病魔と根気よく付き合いながらポジティブを心掛け充実した日々を送っているとほほ笑む。「この年になればお風呂が気持ちよかったとか、ささいな幸せで1日を生きられます。そういう小さな喜びを毎日見つけて頑張っていきたいですね」


展覧会メインビジュアル
「田園の快楽 玉村豊男展」
 5日(水)〜10日(月)、松屋銀座(地下鉄銀座駅直結)8階イベントスクエアで。
 現在、田園に暮らすエッセイスト、画家の玉村豊男のライフスタイルに焦点を絞り、書斎やアトリエのほか愛用の品々を展示し、充実した暮らしぶりを紹介する展覧会。また、これまで描いてきた絵画や版画約70点のほか、執筆した原稿や写真パネルなどでこれまでの人生も紹介する。
 入場料一般1000円。松屋銀座 Tel.03・3567・1211

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