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  横浜・川崎版 令和2年5月号  
演技力磨いた初の刑事役  俳優・藤岡弘、さん

「藤岡弘、」と氏名の後に「、」を付けるようしたのは「『SFソードキル』出演がきっかけ」と藤岡さん。日本の侍が誤解され描かれていたため、台本を変えてもらおうと監督と話し合い、了解された。以来、昔の武将に倣って周囲に流されないとの決意を「、」に込めている
30代の主演ドラマ「高層の死角」、AXNミステリーで放送
 特撮テレビドラマ「仮面ライダー」の主人公、本郷猛役で人気スターとなった俳優の藤岡弘、さん(74)が今年デビュー55周年を迎えた。日本映画やアメリカ映画に出演するなど日米の映画界で活躍、またテレビでも数多くのドラマに出演してきた。その藤岡さんが、初めて刑事役を演じたテレビドラマ「高層の死角」がCS(通信衛星)放送のAXNミステリーで22日に放送される。藤岡さんは「俳優としての転換期に差し掛かっていた私にとって、この役は一つの挑戦でした」と振り返る。同じく主演の「消えた巨人軍(ジャイアンツ)」全5話も同ミステリーで10日に放送される。

 「この前、あるテレビ局に調べてもらったら、これまで私が出演した映画やテレビドラマの数は約600本にもなるそうです。自分でも想像できないくらい多くて、びっくりしました」と藤岡さんはにこやかに話す。

 数多い出演作の中でもNHK「土曜ドラマ」枠で放送され、好評を博した「高層の死角」(森村誠一原作、1977年制作)は、藤岡さんにとって思い出深い作品の一つ。会社社長の殺人事件が高層ビル内で起こり、事件のカギを握る恋人への愛と職責に悩む刑事を演じた。「揺れ動く心情のきめ細やかな演技が要求され、それまで演じたことがない役でした」。25歳から「仮面ライダー」(71〜73)に出演しアクション俳優として活躍していたが、31歳で出演した同作で演技の幅を広げる経験を積んだという。

 太い眉が特徴で男らしい風貌の藤岡さんは、正義の味方や刑事といったキャラクターがマッチする。また、剛毅(ごうき)で実直な古武士というイメージも。それもそのはず古武道「藤岡流」継承者である父によって6歳から武道の手ほどきを受け、俳優とともに武道家としても活動。現在は柔道三段、空手初段、抜刀道四段などの腕前だ。

  藤岡さんは1946(昭和21)年、愛媛県久万町(現・久万高原町)で生まれた。父は警察官で武道家、母は茶道や華道の師範という日本的な家庭で育つが、藤岡さんが11歳のころ父が失踪。一家は経済的な支柱を失う。家計を支えるために藤岡さんも「農家の手伝いやミカンの缶詰工場、配管工事など50種類以上のアルバイトをしました」。

 テレビで見たアメリカ映画などに影響を受け、「将来は映像の世界に進もう」と思っていた藤岡さんは、高校卒業後に上京。「働きながら俳優の勉強をし、お金をためて大学にもいこう」と考えていた。しかし、すぐにこの考えが「甘かった」と思い知る。所持金は乏しく、頼る人もいなかった藤岡さんは上京早々、3日ほど野宿生活をする。「上智大学近くの芝生でした。あの場所に行くと今でも涙が出てきます」。父の形見だった腕時計を質店に入れて何とか困窮状態をしのぐことができた。その後、松竹にスカウトされ、19歳で映画デビューを果たす。

2度の「大危機」
 藤岡さんといえばまず思い浮かぶのは仮面ライダーの勇姿。だが同作は出世作であるとともに、2度も俳優生命を危うくした作品でもあった。1度目はその撮影現場で起きた。9話〜10話の撮影時にスタントマンを使わず自らオートバイに乗ったシーンで、左太ももに大けが。一時は再起不能といわれた。奇跡的に手術が成功し、リハビリに努めて現場に復帰できた。2度目の危機は「仮面ライダー」の放送期間中、「自分の力を確かめたい」とNHKドラマ「赤ひげ」(72〜73)のオーディションを受けたことで起こった。メインキャストが藤岡さんに決まったためトラブルとなる。仮面ライダーを制作する東映は、オーディションのことを知らされておらず、「仮面ライダーの主演俳優がほかの作品に出演するのは認められない」という姿勢。NHKも譲らない。藤岡さんは「責任を取って、どちらの出演も辞退します」と失踪する。

 その後、東映とNHKが和解。一時、神奈川県川崎市の建設工事現場で働いていた藤岡さんだったが、赤ひげには出ずに仮面ライダーに引き続き出演することになった。

 仮面ライダーで全国に知られるようになった藤岡さんは、映画やテレビに相次いで出演する。中でも映画「日本沈没」(73)は74年邦画部門配給収入1位を記録するほどの人気作となり、その後も出演映画が続々と公開になった。そして、38歳のとき「SFソードキル」(84)で憧れのアメリカ映画に主演する。同作で日本人として初めてスクリーン・アクターズ・ギルド(全米映画俳優組合)メンバーへの加入が認められた(現在は永久会員)。

 また、テレビでは「勝海舟」(74)の坂本竜馬役や、2016年「真田丸」での徳川四天王の一人、本多忠勝役などNHK大河ドラマ7作に出演している。

ボランティアも
 そんな藤岡さんが俳優以外に力を入れているのがボランティア活動だ。仮面ライダー出演時から障害者施設などの慰問を重ねていたが、知人のジャーナリストから誘われて以来、世界の難民キャンプを訪ねるようになった。91年のイラクから始まってエチオピア、カンボジア…と、訪問した紛争地域は数十カ国にのぼる。「悲惨な状態でも全力で生きようとする人たちの姿を見て、自分も生きる勇気をもらいました」と話し、これからもボランティア活動に力を入れていく考えだ。


©NHK 「高層の死角」
「AXNミステリー」情報
 「消えた巨人軍(ジャイアンツ)」(78)は、10日(日)午後11時から全5話をAXNミステリーで一挙放送。「高層の死角」全1話は22日(金)午後11時45分から放送する。
 視聴方法などの問い合わせはAXNミステリー Tel.0570・002・316

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