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  横浜・川崎版 令和3年3月号  
「平穏死」考えるきっかけに  “町医者”・長尾和宏さん

「平穏死」とは、特養嘱託医・石飛幸三氏が唱えた、医療・介護の延長上にあるみとりの形。「『平穏死』を選択したとき、家族は理想に近い在宅医を探すのが重要です。必ずコミュニケーションがとれる人を選びましょう」と話す長尾さん。実は映画のキャストにも名を連ねている。「出演シーンは内緒です。映画を見た知人たちは、『いったいどこに出ていたんだ?』というのですが、結構長いせりふをしゃべっています。映画を見て私を探してみてください(笑)」
長尾さん原作・監修の映画「痛くない死に方」公開
 人生100年時代の現代日本は、「多死社会」を迎えようとしている。そんな中、延命のみにこだわる終末期医療の在り方に疑義を呈し、苦痛の少ない自然で安らかな死「平穏死(尊厳死)」を掲げ、最期を自宅でみとる在宅医療の旗振り役として精力的に活躍しているのが、兵庫県尼崎市でクリニックを経営する“町医者”長尾和宏さん(62)だ。現在、長尾さんの著書を原作とした映画「痛くない死に方」が公開されている。「高橋伴明監督の脚本と役者さんたちの熱演で素晴らしい映画ができました。深い映画です。もやもや感が残るところもあると思いますが、皆さんには平穏死や在宅医療について考えるきっかけにしてほしいですね」

 映画は数ある長尾さんの著書のうちから、平穏死を解説した映画と同名の「痛くない死に方」と、在宅医療の理想と現実を赤裸々につづったノンフィクション「痛い在宅医」を原作としている(ともにブックマン社刊)。そのうち「痛くない死に方」は一般向けのやさしい医療解説書でストーリー性はほぼ皆無。だが、映画では両著をつなぎ合わせる形で見事にドラマ化されている。

 長尾さんは高校時代に自主映画を作るほどの映画好き。著作の映画化は初めてであり、「感無量!」とほほ笑む。「できれば医療関係者に見てほしいです。平穏死はまだ、多くの同業者、特に病院のお医者さんに理解されているとは言い難い現実があります。映画を見た人で、大きな病院に通院中の人には、『先生、見ましたか?』と鑑賞をすすめていただければうれしいですね(笑)」

 長尾さんは勤務医・在宅医としてこれまで約2500人をみとってきたと話す。その経験から、人生の終末期での自然な脱水状態から“枯れる”ように死ぬことが、一番苦痛が少ないのだという。それが長尾さんの考える平穏死だ。しかし、現代医療は「死」を敗北ととらえ、“枯れた”終末期に過剰な点滴などの延命治療を施してしまう。

 それにより心臓や肺に大きな負担がかかり、患者はたんやせきに苦しみ、ベッドの上で“溺れる”状態で亡くなるのだという。「人間は生まれたときから徐々に体内の水分の割合が減少し、最期は『枯れ死』する生物。でも現代医療は、善意で点滴の管だらけにし無理に延命することで、患者を『溺死』させてしまうのです」

 また、平穏死はよく話題に挙がる「安楽死」とは違うと強調する。平穏死は、死への苦痛を麻酔や医療麻薬などで和らげる「緩和ケア」、遺族の心に寄り添う「グリーフケア」など、法的にも技術的にも実現可能な医療。だが、死期を人為的に早める安楽死は、日本では医者が罪に問われかねない。「安楽死は、平穏死が十分に社会に普及してから議論されるべき。いま議論するのは時期尚早」と語る。

町医者冥利
 映画では、長尾さんをモデルにした在宅医が平穏死を象徴するせりふを語る。「大病院の専門医は臓器という断片を見る。俺たち町医者は物語を見る!」。医者が患者の人生の物語を、患者自身やその家族と共有し強い信頼関係を築いてこそ、平穏死は実現できるという。「コミュニケーションが第一です。患者の全てを見て、家族と強い絆を紡いで平穏死を見事達成できたとき、遺族から感謝されます。それこそ町医者冥利(みょうり)に尽きますね」

 長尾さんは1958年、香川県生まれ。医者になることを決意したのは高校時代。父がうつ病を患い、薬を飲むたびに衰弱。最後には自殺してしまったという。「父は薬に殺されたのだと思ってます。それから医者を志しました。ある意味で、現代医療に復讐(ふくしゅう)するためです。つまり真に患者が求める医療を見つけたかったのです」

 医大では無医村を回り、卒業後は救急医として大阪に赴任。次々運ばれる重症者へ延命治療を施したが、多くが苦痛のうちに亡くなった。「医者は病と闘いたがりますが、それにより苦しむのは患者。闘う必要があるのか?それが、僕が平穏死にこだわる原点です」

 95年、兵庫県芦屋市での勤務医時代に阪神・淡路大震災を経験。自ら被災しながらも出勤し、野戦病院さながらの地獄の中で診療した。同年、尼崎で独立し外来診療をしながら、在宅医療に従事。以降、同地から現代医療に一石を投じ続けている。

 長尾さんが映画を監修するにあたり、こだわったことの一つが「死の壁」の描写だ。人は死ぬ直前、命の炎を燃やすがごとく猛烈に暑がりはじめ、服を脱ぎ、病状によっては苦痛にのたうつのだという。「多くのみとりを経験して得た私の知見です。ここで多くの家族は救急車を呼んでしまいます。入院となれば医者は点滴につなげたがり、家族も同意してしまう」。だが一度延命治療に入って、途中でやめれば医者が殺人罪に問われかねず、後戻りはできない。「そのとき緩和ケアで患者の苦痛を取り除き、平穏のうちにみとることもできる。医者も家族も『待つ』ことが重要です」

 長尾さんは、高齢の親を持つ人たちに呼び掛ける。「多くの人たちは親の死に目を背け、苦痛を伴う延命治療を受け入れてしまいます。人は必ず死にます。親の死を受け止めてください。そして、最後の数日だけでも親に寄り添ってあげてはどうでしょうか。それが親孝行だと思うのです」


©「痛くない死に方」製作委員会
「痛くない死に方」
 在宅医療に従事する河田仁は、末期の肺がん患者・井上敏夫を担当。敏夫の娘の智美の意向で、痛みを伴いながらも延命治療を続ける病院ではなく、“痛くない在宅医”を選択したとのこと。しかし、河田は電話での対応に終始。結局、敏夫は苦しみ続けてそのまま死んでしまい、「自分が殺したのだ」と智美は自らを責める。河田は悔恨の念にさいなまれ、在宅医の先輩である長野に相談。在宅医としてあるべき姿を模索していく—。

 監督・脚本:高橋伴明、出演:柄本佑、坂井真紀、余貴美子、長尾和宏、大谷直子、宇崎竜童、奥田瑛二ほか。112分。日本映画。

 ムービル(Tel.045・311・6226)ほかで公開中。

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