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  千葉版 令和4年3月号  
人生の最終章、悲しみだけではない  ドキュメンタリー監督・信友直子さん

両親が写った新作のポスターを背にする信友さん。母・文子さんは、認知症を発症するまでは専業主婦として、家事全般を取り仕切っていた。「料理も裁縫もすごく上手。今思えば、父は家の中で“格好良さ”を発揮する“スキ”がなかったのかな?(笑)」。着用の洋服は、「母が仕立てて自分で着ていた服。今は、私が大切なときに身に着ける“勝負服”です」と言う。現在、101歳の父・良則さんは変わらず元気で、「私以上に張り切って、映画のチラシを配っています」
「ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~」25日公開
 認知症の母と、介護に当たる父の日常を描き、大きな反響を巻き起こしたドキュメンタリー映画「ぼけますから、よろしくお願いします。」。その続編となる「ぼけますから、よろしくお願いします。〜おかえり お母さん〜」が、25日から公開される。映画の主題は認知症、老老介護から、延命治療、看取(みと)りへ…。監督の信友(のぶとも)直子さん(60)は「信友家の内情の変化が、作品におのずから反映した」と話す。「母の旅立ち」を思い返し、かみ締める。「人生の最終章には悲しみだけでなく、笑いも温かさも…。それを感じていただければうれしいです」

 おかえり お母さん—。広島県呉市の古びた、小さい一軒家。信友さんの実家にはおととし夏、91歳で生涯を閉じた母・文子さんの「お骨」がある。昨秋101歳になった父・良則さんは、笑顔の遺影が見える場所に座る。5年前の正月、信友さんが手にするビデオカメラに向かい、「ぼけますから、よろしくお願いします」と、冗談めかして頭を下げた文子さん。2018年秋の前作公開直前に脳梗塞で倒れ、入院先の病院で自宅に戻ることを渇望し続けた。新作のタイトルに採った「おかえり お母さん」は、「私と、そして父の実感です」。

「グリコ・森永事件」
 ひとり娘の信友さんは1984年、東京大学文学部を卒業し、森永製菓に入社。社内コピーライターになったが、同年発生した「グリコ・森永事件」により、「かわいそうな新人OL」として、激しい取材攻勢にさらされた。無神経と思える質問も多かった中、「一人だけ、お姉さんのような記者が寄り添ってくれた」。86年、映像制作者に転身し、北朝鮮による日本人拉致や若年性認知症などの問題を、テレビのドキュメンタリー番組で取り上げた。「仕事にのめり込んで結婚もせず…、昼夜の別ない毎日でした」

 「体が悲鳴を上げたと思う」。07年、乳がんを発症した信友さんは苦笑する。左乳房の部分切除手術を前に涙ぐむ娘を、上京した母はユーモアを交えてなだめ、手術後は一人で目を潤ませる。その闘病体験は映像化され、「おっぱいと東京タワー 〜私の乳がん日記〜」の題名で、09年にテレビ放映。ただ、自らにカメラを向ける中、「ものすごい葛藤があった」と明かす。

 「私のおっぱいを(画面に)出すか、出さないか」。他の取材では、「相手の深層心理を掘る。いわば(心を)“素っ裸”にしてきた」と言い、こう続ける。「結局は、私も覚悟しないと申し訳が立たないと…」。穏やかな笑みを浮かべ回想する。「私も森永で味わっていたはずの取材される側の『痛み』…、それをはるかに超える『痛み』を抱えてなお、カメラの前に立ってくださるありがたみが、骨身に染みました」

両親の「信頼」
 そんな信友さんが母の異変を感じたのは10年前。その1年半ほど後、文子さんは85歳で「アルツハイマー型認知症」と診断された。以前からビデオカメラの撮影練習で両親を映していたものの、「初めは私も『うつ』に近くなって、作品にしようなど、考えられなかった」。しかし、仕事仲間の提案、介護離職に反対した父の後押し、そして母は「直子はお母さんらのこと、悪いようにはせんじゃろう?」。16年と17年、情報番組「Mr.サンデー」(フジテレビ系)などで放映された特集には再放送希望が殺到し、映画化の話も持ち上がった。もの忘れなどの症状にあらがうように台所に立つ母、93歳で家事を始めた父…。娘として遠距離介護を兼ねての撮影だったが、作中では認知症や老老介護を、深刻な社会問題として声高に訴えたりはしない。「私は、私の目線で、『どの家族にも起こり得る物語』を描き、受け止め方は見る人に委ねる。メッセージの押し付けは格好悪い」。涙あり・笑いあり・時々怒りあり…。公開当初、1館だけの上映館は全国99館に増え、自主上映も含めれば20万人以上が鑑賞した。「もともと楽天的な2人のやりとりは時にユーモラスで、娘の私から見てもほほえましかった」

生・老・死の「美」
 新作では、前作を見ていない人も経緯が分かるよう工夫した上で、文子さんの脳梗塞発症以降を主につづる。「家に帰りたい」と母はリハビリに励み、父は母の退院後に備えて98歳で筋トレを始める。だが、母に新たな脳梗塞が見つかり、コロナ禍で面会もままならない状態に—。最期までの1年間、胃に直接栄養を送る「胃ろう」を選択した信友さんは、「今も『本当に良かったのか?』と、くよくよしている」。泣きながら撮影した看取りのとき、「感謝しとるで…」と声を振り絞った良則さんは、「お母さんのお骨は、わしと一緒に墓に入れてくれ」と、後に娘に告げている。信友さんは、介護経験のある知人の言葉「介護は、親が命懸けでしてくれる、最後の子育て」をかみ締める。「認知症が進んでも、『ありがとう』と手を握ってくれた母。そして、父が意外にも“格好いい男”と気付けました(笑)」。今作のラストシーンは、「どこか幻想的で、自分でも見るたびに『うるっ』とくる」と言う。「人は皆、生きて、老いて、死んでいく—。その営みにある美しさを象徴する映像です」

 今は「娘業」を優先し、横浜市の自宅と呉市の実家を行き来しながら、次作以降の構想を膨らませる。「年を取ったら取材可能な老人ホームに入り、私を含む人間模様を撮ってみたい」。自身が認知症になった場合も想定する。「自分を撮り続け、いよいよ『無理』となったら、後の撮影は後の世代に託す」。若い頃は「『かわいい』と感じてもらえるようなので、取材の“武器”にもした」と言う「アニメ声」の地声で言葉を継いだ。「もう仲間に頼んであるんです」


©2022「ぼけますから、よろしくお願いします。〜おかえり お母さん〜」製作委員会
「ぼけますから、よろしくお願いします。 〜おかえり お母さん〜」
 監督・撮影・語り:信友直子。101分。日本映画。

 25日(金)から、千葉劇場(Tel.043・227・4591)ほかで全国順次公開。

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