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  東京版 平成30年11月上旬号  
「演劇は人生の師」  俳優・演出家の笈田ヨシさん

三島由紀夫にはだいぶ親しくしてもらったと笈田さん。「三島先生が亡くなった後、奥さんに遺品の背広をもらってくれないかと言われましたが、『背広など着る機会がない』と断ってしまいました。今考えればもったいないことしましたね(笑)」。また今回の舞台について、「原作は生まれ変わりの話。この舞台を通じて、三島先生の文学が現代にいきいきとよみがえれば…。それこそ先生の生まれ変わりとして、この作品が存在できればいいですね」
三島由紀夫原作の舞台「豊饒の海」に出演
 「僕にとって演劇は人生の師」と語るのは、海外の名だたる演出家・映画監督の作品で活躍、現在フランスに在住し2013年に同地で芸術文化勲章の最高位「コマンドゥール」を受勲した俳優・演出家、笈田(おいだ)ヨシさん(85)。現在、三島由紀夫の遺作を原作とした舞台「豊饒の海」に出演中だ。「この舞台の原作は約60年にわたる物語。そして僕が三島先生演出の舞台『サロメ』に出演させていただいたのがほぼ60年前。何か運命を感じますね。60年を経て三島先生の作品について仕事させていただくのは感無量です」

 舞台「豊饒の海」は、青年や女性に転生しては若き死を繰り返す「松枝清顕」と、彼を取り巻く人々の物語。笈田さんは、生まれ変わるたびに目の前に現れる「清顕」を生涯かけて追いかける「本多繁邦」の最晩年を演じる。「原作は三島先生が自決を決心され、自分の死を目前に置きながら、『人間とは』『愛とは』『信じるとは』『運命とは』についてお考えになり書かれた作品です。舞台を見に来られたお客さんには、“三島先生と一緒に”『生きる』とはどういうことかを考えていただければうれしいですね」

演出家に憧れ役者に
 笈田さんは1933年、神戸市の生まれ。幼少のころから演劇が大好きで、10歳ごろに親に連れられて行った神戸・新開地での「小芝居」や「剣劇」に夢中になり、学校をさぼって見に行ったほど。やがて演劇熱が高じ、「自分で思うような演劇をつくりたい」と、一座を率いる演出家に憧れる。だが、そのためにはまず役者として大成しなければと、大学卒業後は文学座に研究生として入団。当時の文学座は杉村春子、芥川比呂志をはじめ名優ぞろいで、作家・三島由紀夫も指導的立場にいた。三島演出で岸田今日子主演の「サロメ」に出演したのもこのころだ。「三島さんはきさくでおちゃめな人。文壇では一匹おおかみとして気を張っていましたが、僕なんかとはばかな話で盛り上がり、気を休めていたのでしょうね」

 笈田さんは文学座に10年在籍。その間、演技の糧とすべくバレエや声楽、狂言、能などさまざまな稽古にも励んだが、俳優としての芽は出なかった。「当時は、『大役者になりたい!』というぎらぎらした野心が先行し、何をやってもうまくいきませんでした」

「自我捨て自分をゼロに」
 しかしひょんなことから転機が訪れる。68年、イギリス、ロイヤル・シェークスピア劇団の演出家ピーター・ブルックが、世界中の俳優を集めた実験劇をパリでやりたいと、人を介して日本でも役者を募っていた。お目当ては能や狂言などの伝統芸能の役者だったが誰も都合が付かず、狂言、義太夫を習得していた笈田さんに白羽の矢が立ったのだ。当時34歳の笈田さんは英語もフランス語も全く話せなかったが、二つ返事で了承。狂言の師だった大藏彌太郎(24世大藏彌右衛門)の「ほかの役者を助ける演技をしなさい」との助言を餞別(せんべつ)に渡仏した。

 いざパリについてみると、自分以外は米英仏のそうそうたる役者ばかり。だが、笈田さんは「他人を助ける演技」、そして「これまでの経験を全て捨て、ゼロから自分に何ができるか努力」したことでブルックの信頼を勝ち取る。「ピーター・ブルックは当時の大演出家。絶対に役者に命令はしませんが、役者にとってのベストの演技を、あたかも役者本人が発見したかのように導く手腕は見事でした」

世界中を演劇で巡る
 2年後、ブルックが演劇研究団体を起こすと笈田さんは再び誘われ、ブルックの片腕の一人として3年かけて演劇を披露しながら世界中を回る。中には“演劇”という概念すら知らないアフリカの村落で即興劇を披露したことも。「演劇というものを一から見つめ直す良い機会になりました」

 そして、40代初めにしてついに笈田さんも自分の一座を結成。構成員は僧侶や神官、武道家、能楽師、ジャズ演奏家などユニークな顔ぶれ。日本伝統芸能のワークショップをセットに、世界中を公演し好評を博すが、笈田さんは一座を解散してしまう。「僕はボスに向いてないんです。それにブルックという師を持ったことで、どうしても理想が高くなってしまいました。偉大すぎる師は持つべきではありませんね(笑)」

 現在、笈田さんはフランスに在住。世界各地で役者、演出家として活躍しているが、「フランス語はまだあやふや。50年間住んでも、今もってフランス人の頭の中は分からないですね」と苦笑する。

 また、自分の人生観については演劇から学んだと語る。「自分をゼロにして何ができるかです。自我や経験はホコリのようなもの。年を取るたびに“足す”のではなく、それらを掃除することが大事です。これが人生を、そして老後を豊かにおくるコツだと思います。僕はそうやって死ぬまで魂を磨いていきたいです」

三島由紀夫原作「豊饒の海」
 12月2日(日)まで、紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA(JR新宿駅徒歩5分)で。全30公演。11月5日(月)からは28公演。

 「また、会うぜ。きっと会う」との言葉を残し、松枝清顕は親友、本多繁邦にみとられ20歳の若さで命を落とす。そしてその言葉通り、本多の生涯に清顕の生まれ変わりは幾度も登場し、通り過ぎていく—。三島由紀夫絶筆の、夢と転生の長編小説「豊饒の海」が初の舞台化。また、60年にわたる物語の軸となる本多繁邦は青年時代、中年時代、老齢時代と3世代の役者により演じられる。

 脚本:長田育恵、演出:マックス・ウェブスター、出演:東出昌大、宮沢氷魚、上杉柊平、大鶴佐助、神野三鈴、初音映莉子、首藤康之、笈田ヨシほか。

 全席指定9000円。問い合わせはパルコステージ Tel.03・3477・5858

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