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  横浜・川崎版 平成22年3月号  
生まれてきて、本当によかった  作家/太田治子さん

太田治子さん。母・静子さんの故郷、滋賀県の琵琶湖のほとりで(太田さん提供)
 
   
父・太宰治と母について執筆
  ある程度の年齢になって自分史を書きたいという人は多い。自分はどこから来たのか、なぜ生まれたのか、両親やその時代背景を追求してみるのも新しい発見があって面白いだろう。2009年に「明るい方へ 父・太宰治と母・太田静子」(朝日新聞出版)を出版した作家・太田治子さん(62)は、「書き終わった今、生まれてきて心からよかったと思っています」と笑顔を見せる。14日(日)には横浜の神奈川近代文学館で講演会も開催する。ずっと心に引っ掛かっていた「長年の宿題」を終わらせるまでの葛藤(かっとう)を聞いた。

 太宰治の小説「斜陽」の主人公のモデルであり、基となった日記の提供者でもあった太田静子さんは、太田さんを1人で産み育てた。太田さんが生後7カ月の時に太宰は自殺。父である太宰に会ったことはない。

 チェーホフの「桜の園」のような没落階級の物語を書きたかった太宰が滋賀の裕福な開業医の娘である静子さんと知り合い、彼女の日記を基に「斜陽」を書いたことは長年公表されていなかった。生前、静子さんは「『斜陽』の書かれた背景と真実を書いてほしい」と太田さんに繰り返し口にしていた。それでも、「太宰に向き合うことをずっと避けていました」と太田さんは振り返る。「母の日記や手紙などの資料も残っていましたけれど、たんすの奥深くにしまっていました。長い間の宿題でした」

 しかし、08年に林芙美子の評伝「石の花|林芙美子の真実」(筑摩書房)を出版して心境が変わった。「林さんという他人に向き合ったのだから、今度は“太宰さん”という人に向き合わなくてはと思いました」

 連載が決まりタイトルを付ける時、「(内容が)重くなると分かっていたので、できるだけ明るい方へいくように」と、大好きな金子みすゞの同名の詩から題を拝借した。

 
「明るい方へ 父・太宰治と母・太田静子」1575円(朝日新聞出版)
書いてこそ、自分が見えてくる
 「自分がどこから来たのかを考えることは、とても苦しかった」と太田さん。両親の過去をひとつひとつあらわにする作業は、必然的に筆が重くなる。なかなか筆が進まず苦しんだが、1人娘の万里子さんが「ママ、太宰さんも太田静子さんも他人なのよ。そう思えばすらすら書けるでしょう?」と声を掛けてくれた。その言葉に気が楽になった。

 感傷を振り払うように、あえて淡々と筆を進めた。それがかえって真実に向き合う勇気を感じさせられ、読み手は感動する。本人も「クールに書けたと自負しています」と自信をのぞかせる。

 太宰の言動の中でも、戦時中に日本軍の意向に沿う文章を書いたことを太田さんは特に手厳しく追及した。

 「太宰は戦争に負けると分かっていたのに勝つかのような文章を書き、戦後になるとあっさり自己弁護しています。このことには、義憤を感じますね」と口調を強める。

 「身内を切ることになりましたが、真実を書きたかった。書きながら『ごめんなさいね、でもあなたが好きなんですよ』と思っていました」

太宰からは卒業
 すべてを書きあげた今、太田さんは「2人の出会いは明るいものだったと信じられる気持ちになって、心が晴れてゆくようでした。生まれてきて心からよかったと言えます」と話す。

 治子、という名前は太宰が名付けた。太宰は念書も書いてくれた。太田さんはそのことを「太宰のいけないところを思いきり書き綴りたいと思う一方で(略)、心から感謝していた」と書く。書くことではっきり見えてきたものがあり、自分なりの決着が付いた。本を出版後、まるで待っていたかのように下曽我の家が焼けた。

 次作は、明治の洋画家・浅井忠について書くつもりだ。太宰と「斜陽」の背景に向き合ったことで、「時代を勉強したい」と思うようになったという。夏には月刊「ちくま」で連載していた「グッド・ラック」も刊行される予定だ。離婚歴のある女性の再出発を書いたもので、主人公と同じく現在独身の太田さんは、「いくつになってもロマンスは持ち続けていたい」とほほ笑む。

 今後また太宰について書くことはありますか、と聞くと「いいえ、もう太宰からは卒業しました」ときっぱり笑い、ぱっと部屋が明るくなった。

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