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  茨城版 令和4年2月号  
絵本「海のアトリエ」で「Bunkamuraドゥマゴ賞」受賞  画家・絵本作家 堀川理万子さん

アトリエで絵画を描く堀川さん。絵画と絵本に加え、イラストなどの制作も並行させている。「(飼っている)メダカの世話や鉢植えの手入れ…、それからお散歩が気分転換法です」。部屋には、絵本「海のアトリエ」のモデルになった女性から譲り受けた観葉植物のモンステラも。「物事を先入観なく『ゼロ』からの視線で捉える姿勢を貫きつつも、柔らかな雰囲気をまとっている人。たとえ私が絵描きにならなくても、大きな影響を受けた人だと思います。コロナが収束したら、お訪ねする約束をしています」
 時の流れを絵本に描く—。画家・絵本作家の堀川理万子(りまこ)さん(56)は「それが絵本の醍醐味(だいごみ)かな?」と柔らかな笑みを見せる。自身が絵と文を手掛けた絵本「海のアトリエ」は、昭和30年代の「ひと夏の思い出」と「今」が交差する物語。同作を「Bunkamuraドゥマゴ文学賞」受賞作に選んだ作家・江國香織は「絵本においては、絵が言葉。『海のアトリエ』を“読めば”すぐに分かる」と、その文学性を評価した。堀川さん自身、絵と文に「主と従はない」と考える。「『1+1=2』でもなく、“読み合わせれば”お話の世界がもっと膨らむ。切り離せない間柄です」

 絵画と絵本—。堀川さんは両者の最大の違いを「時間」に見いだす。「一つの時間を凝縮するのが絵画なら、絵本は推移や変化…、時間の表現が得意です」。とはいえ、「(絵本には)絵画とは違う難しさがある」とかみ締める。「描いたものは、文にしない。書いたところは、絵にしない」。絵と文が響き合う絵本制作の基本ともいわれるが、「私にとっては永遠の目標でもあるのかな?」と言葉を継ぐ。

 描き足しては文をそぎ、書き加えては描き直す—。昨夏出版の「海のアトリエ」((株)偕成社)はその繰り返しで、制作に4年を要している。「ストーリーもできるまでは、蛇行しっ放し…(笑)。そこにも時間を取られました」

“どん底”を経験
 杉並区に生まれた堀川さんは東京藝術大学大学院美術研究科修了前から画家として活動。児童図書情報誌の表紙絵や児童文学書の挿絵の依頼も受け、やがて絵本の絵の仕事にも携わった。「子どものころから大好きな絵本作りに関われ、幸運でした」。しかし30代に入って体調を崩し、「手足に力が入らなくなってしまった」と振り返る。医師から「原因不明」と告げられたが、「今思えば、過労とストレスかな?」。車椅子の日々の中、いったんは画業継続をあきらめた。1年数カ月後に体が動き始め、活動再開。今、満面の笑顔で明言する。「“どん底”を味わい、強くなれました。ちょっとやそっとでは、へこたれません」

 30代半ばから、文も自作の絵本に挑戦。2005年にオリジナル絵本第1作として出した「ぼくのシチュー、ままのシチュー」(現在は(株)復刊ドットコム)をはじめ、「小さな出来事をほわほわと集めたお話が多いんです」。創作前の発想を「卵のようなもの」と言い表す。「幾つかの卵をつないでいくうちに“絵本の意思”が生まれ、私はそれに従う感覚」。テーマやメッセージの押し付けからは、「(作品の)広がりは生まれない」と話す。「細部の描写の積み重ねを通し、人によって違う、さまざまな想像、感じ方を呼び起こしたいのです」


「海のアトリエ」 堀川理万子著
 ((株)偕成社・1540円)
実在の「モデル」
 昨秋、「第31回Bunkamuraドゥマゴ文学賞」に輝いた「海のアトリエ」も、そんな思いで創った一冊だ。

 《そのころ、あたしは、ちょっといろいろ、いやなことがあって、学校にいけなくなっててね》

 祖母と孫娘の対話で進む物語。“そのころ”の「おばあちゃん」は「絵描きさん」に誘われ、海辺のアトリエで夏の1週間を過ごす。スイカの香りがする水、海草の匂い、足の裏にくっついた絵の具…。半世紀以上たっても色あせない祖母の記憶は、孫娘である「わたし」の心を優しく揺らす—。

 《わたしも、そんな絵描きさんにあいたかったな》

 毎年、1人の選考委員が受賞作を選ぶ「ドゥマゴ文学賞」の第31回選考委員を務めた江國は、「絵本はもちろん文学である」と断言した上で、「多くを語る絵」を授賞理由に挙げた。「“読み返す”たびに発見がある絵が目標」と言う堀川さんは、声を弾ませる。「江國さんは『絵の細部にこそ、読者の五感を満たし、時間の流れに引き込む力がある』と…、その評に感動しました」。作品ごとに多彩な画材・技法を使い分けるが、「海のアトリエ」では、透明水彩絵の具を用いている。海に照りつける外光、夜の室内の温かい明かり…。「透明水彩絵の具は、余白になじんで画面に大きな空気感を生んでくれる。場面に応じた光の表現にも適しています」

 出版後、子どもだけでなく、「大人からの感想もすごく多い」と言う。「『絵描きさん』のような存在になりたい」、「(作中の)『わたし』に同感です」…。「絵描きさん」にはモデルがいる。堀川さんが子どものころ、絵を習った画家の女性で、「子どもを“子ども扱いしない”人でした」。その女性の話を基にした創作を勧めたのは、編集者の広松健児((株)偕成社編集部部長)だ。堀川さんは「絵本は、私一人の力ではできない。お話の進む道を一緒に考えてくれる編集者の存在は大きいです」と率直な思いを語る。「絵本は、みんなで作る映画に近いかも?」

 今は90歳を過ぎた「絵描きさん」のモデルのように、「私も長生きして描き続けたい」。現在、温めている“卵”もある。「少し前、すごく大事な友達を亡くした。彼女との楽しかった日々を、また絵本にしたいです」。09年発行のオリジナル絵本「おへやだいぼうけん」((株)教育画劇)は、想像力に富んでいた彼女との遊びから着想を得た。「今度、もし創れたら、全く違う作品になるはずです」。堀川さん自身、50代に入って、がんを発症したが、「幸い初期で、今は心配ない状態」とほほ笑む。がん告知後も、昨秋の受賞後も、「実はどっちのときも、頑張って心を『中庸』に戻しました」。受賞には「拝むような気持ち。でも…」。自身に言い聞かせるようにこう続けた。「幸不幸、毀誉褒貶(きよほうへん)に右往左往すると、自分の仕事が見えなくなってしまう。そこにはすごく気を付けて、自分を磨いていきたいです」

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