「中高年にはコーラスがおすすめ。地域のサークルや、子や孫が通う小学校のPTAコーラスに参加してみては」と話す服部さん

　音楽を聞いたり、楽器を演奏したりすることで、病気の治療や改善に有効とされる音楽療法—。服部さんがミュージック・セラピーを学んだのは、1963年にアメリカ・ミシガン州立大学に留学した時のこと。「第2次世界大戦後、傷病兵の治療のために取り入れられた心理療法で、日本ではまだ知られていなかった」と振り返る。

　「帰国後、すっかり忘れていた」と笑うが、58歳の時に大学院でミュージック・セラピーを教えることになり再び勉強。付属幼稚園の園長を務めた時代（64〜70歳）には「私自身の幼少期の記憶のように、昔を思い出す卒園生もいるはず」と登下校時に音楽を流す工夫も考えた。定年で大学教授を退いた現在はピアノの練習を自らに課す毎日。「中学1年の時に習ったハイドンやモーツァルトなど毎日1時間以上弾いています。妻が『下手ね』と、ばかにするので留守を狙ってね」と苦笑する。

　「先走りでお調子者…。昔から山形アガスケなんです」。服部さんは音楽教師であった祖母の指導で幼少時からピアノを習い始めた。

　寝る前に子守歌代わりに聞かされたというSPレコードは、バイオリン奏者ミッシャ・エルマンが弾く“ドリゴのセレナーデ”。恋を歌った甘いバイオリンの音色は、同じSPが4枚もあったという祖母のお気に入りだった。「私自身の明るい音楽性と、陽気なキャラクターはドリゴの影響かな」と服部さんは笑う。

　学習院大学文学部在学中からアマチュアの音楽家として活動し、中田喜直や山田耕筰、團伊玖磨らの知遇を得た服部さん。「マーチング・マーチ」や「アイスクリームの歌」など子ども向け番組用の童謡や合唱曲を作曲し有名に。校歌や地方自治体歌など数々の作品を手掛けるほか、各国音楽の比較文化研究や児童音楽教育の研究・実践にも努めてきた。

東北各県で続けている合唱コンサート＝盛岡公演

「みちのく美し」
　50歳を過ぎてから古里・山形をはじめ、東北6県や新潟県で合唱コンサートを開始。コンサートには、仙台フィルハーモニー管弦楽団、山形交響楽団が出演し、地元のアマチュア合唱団が共演する。

　東日本大震災以降、服部さんが作った混声四部合唱曲「みちのく美（うるわ）し」が各地で歌われているという。シンプルなメロディーに、「鎮魂」「東北の再生」を託した同曲。震災以降、「義援金の寄付だけでなく何かできることを」と思っていた時、カワイ出版から震災復興事業「歌おうNIPPON」プロジェクトへの協力を頼まれ、すぐに楽曲を生み出した。東北の風景を盛り込んだ歌詞も服部さんによるものだ。

　また、服部さんは老化予防の面からも中高年にコーラスを勧める。ポイントはカラオケのように一人で歌わないことだという。「楽譜を読むのは知的作業になるし、声を出すという運動は生理的にもいい。隣の人と合わせるにはタイミングも重要です。どうしても難しいときは、黙っていることもできるから」とにこり。“みちのく復興”の思いを込めたさまざまな人の歌声や、シニアの歌声の輪が広がっていくことを願っている。