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  東京版 平成25年11月上旬号  
認知症の母を愛情込めて描く  漫画家・岡野雄一さん

長崎市の自宅で机に向かう岡野さん。若い頃、ビートルズに熱中した岡野さんはシンガー・ソングライターとしても活動し、CD3作品を発表している。「漫画も音楽も同じ題材、同じテイスト。表現方法が違うだけです」 撮影:松尾順造
“長崎発”の漫画、劇映画に
 認知症になり施設で暮らす90歳の母…、母に会いに行くはげ頭の息子—。そんな日常を息子が描いた漫画「ペコロスの母に会いに行く」が、長崎から全国へ反響を広げている。症状や家族の物語を、笑いでくるんだエッセー漫画。同作が原作の劇映画は16日(土)から全国公開される。長崎市在住の作者・岡野雄一さん(63)は、発症から10年以上、母を見守り続ける。人生の重荷を下ろしたかのように安らいだ表情に接すると、こんな思いも湧く。「ボケるとも、悪かことばかりじゃなかかもしれん」

《みつえさん、俺(オイ)誰(だい)かわかる?》
《きよのり(母の弟)》
《ちがう! さあ誰しょ?》


 「ペコロスの母に会いに行く」では、岡野さんと母・光江さんのやり取りが長崎弁でつづられる。母へのいとしさと切なさが交錯する中、ユーモアを織り込んだ“ほっこり系漫画”。岡野さんはこう話す。「(母の症状に)ショックを受けても、描くことで笑いに転換できる。それは自分の救いにもなってきた」。作中に“胸中の声”を記す。

《良かさ! 生きてさえおれば。何ば忘れても良かさ!》

 岡野さんは現在、自分が生まれ育った家に住む。ただ20歳の時、「親から逃げるように長崎を出た」。幻覚・幻聴に悩まされた父は酒におぼれ、しばしば母に手を上げた。しかし、上京後も「思うようにいかない人生(笑)」。漫画家になりたかったが劇画全盛期の当時は、ほのぼのとした作風は見向きもされなかった。都内の小さな出版社に入り、アダルト系漫画誌の編集者として働いた。「漫画家の夢はあきらめたつもりでした」

 両親を呼び寄せることも考え千葉県内に家を建てたが40歳の時、離婚を機に当時3歳の長男を連れて長崎に戻った。60歳から酒を断った父は本来の優しい性格が前面に出て、「両親には一番いい時期になったのでは…」。だが父が他界した2000年から、母に認知症の症状が出始めた。徘徊(はいかい)のほか、「汚れた下着をたんすに隠したり…」。夜、車で帰宅した際、真っ暗な駐車場で待っていた母をひきそうになったこともある。

 帰郷後は広告代理店の営業やナイト系タウン誌の編集に携わった岡野さん。仕事の合間に自宅に戻り、3度の食事の世話などを6年ほど続けた。しかし、認知症は緩やかながらも進み、母は市内のグループホームへ。症状の進行を痛感し、「涙が出た時もある」と言う。ただ、父を支えながら岡野さんと弟を育て上げた気丈な母の中で、「『何とかせんばいかん』という力みがほどけていく感じがあった」。自宅の仕事部屋で笑顔を見せる。「母に『良かったね』と言いたくなる時もある」

「事実+想像」
 過去と現在の区別がつかなくなった母の言動に、自身の想像をまじえて創作する。例えば亡くなった父は“母にだけ見える姿”で現れ、生前の行いをわびる。母は優しく声を掛ける。

《顔ばあげてください》

 岡野さんはかみ締める。「父と母の絆の強さを母がボケてからあらためて実感した」

 漫画のタイトルにある「ペコロス」は、直径3〜4センチの小タマネギのことだ。「はげ頭で丸顔、小柄な僕にぴったり」。自らに付けた愛称の由来を語る。「いつまでたっても大成しないという意味も込めた。僕は今も母からネタを頂いている」

 勤めていた会社の倒産もあり、56歳からフリーライターに。そんな中、母や身の回りの出来事を描いた漫画をタウン誌などに掲載してきた。2冊目の自費出版「ペコロスの母に会いに行く」は昨年1月の発行直後から評判になり、実写映画の話も舞い込んだ。商業出版用に再編集した同名の著書は17万5千部を超す。4年前、自費出版した作品は初めほとんど売れなかっただけに、「僕の漫画がちょうど今、時代と出合った気がします」。

 岡野さんは施設に母を預けているため、「『介護』という言葉は恐れ多いと感じていた」と明かす。読者から相次ぐ共感の声は「実はとても意外でした」。ある福祉施設の運営者からこう言われた。「介護の手法は教えられる。でも老いて弱ってしまった人たちにも必死で生きてきた人生があると教えてくれるのは、この漫画です」

「映画、最高やね」
 劇映画では自費出版の本を含む原作のエピソードを盛り込みながら、母の心の軌跡が描かれる。岡野さんはほほ笑む。「こんな地味な漫画が映画になるんかと思ったけど…、母の人生が最後の場面で、全て昇華したような印象を受けた。笑いもあるし最高やね」

 「週刊朝日」に連載する「ペコロスの母の玉手箱」などで母を描き続けながら、「自分の関心が向く身の回りの出来事も描いていきたい」と話す。“超遅咲きの漫画家”として注目される今、「寄り道ばかりしたような数十年がなければ、今の作品はなかった」。そして「俺(オイ)のような遅咲きは特別ではないはず」と言う。その理由をよどみなく語る。「還暦くらいまで一生懸命に生きてきた人が、その経験を何かの形にしたら、面白いものはできると思う」


©2013「ペコロスの母に会いに行く」製作委員会

「ペコロスの母に会いに行く」(自費出版)より©Yuichi Okano
「ペコロスの母に会いに行く」  日本映画
 原作:岡野雄一、監督:森﨑東、出演:岩松了、赤木春恵、原田貴和子、加瀬亮、竹中直人ほか。113分。16日(土)から、新宿武蔵野館(Tel.03・3354・5670)ほかで全国公開。

 原作の漫画「ペコロスの母に会いに行く」は、西日本新聞社から発行。1260円。

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