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  東京版 平成27年4月上旬号  
「がん征圧の伝道師役」  日本対がん協会会長・垣添忠生さん

12歳年上の昭子さんとの結婚は、垣添さんの両親らの大反対に遭った。「私が26歳の時、“家出”をして一緒になった」と垣添さん。快活で語学に秀でていた昭子さんは、公私にわたって夫を支えた。「妻がいなかったら、今の自分はありません」。昭子さんと一緒に楽しんだカヌーや山登りも今は再開している。「妻の写真をいつも持って行きます」
妻の「がん死」…悲しみ乗り越えて活動
 日本人の2人に1人が「がん」になる時代—。国立がんセンター(現・国立がん研究センター)元総長の垣添忠生(かきぞえ・ただお)さん(73)は “がん征圧”の伝道師役を自任する。研究、診療、病院・研究施設の管理・運営…。長くがんのあらゆる側面に関わり自身も2度、がんの治療を受けた。しかし最愛の妻は、がんで命を落としている。「治しにくいがんは確かにある」と言いながらも、日本対がん協会会長として、検診の重要性を説く。「早期がんのほとんどは簡単に治る。『普通の病気』と考えていいのです」

 がん専門医である自分の目の前で、がんが妻の命を奪う現実—。2007年の大みそか、垣添さんは妻の昭子さんを都内の自宅でみとった。悪性度が高い肺の小細胞がん。子どもがいないこともあり、正月三が日を独り、遺体の傍らで過ごした。「喪失の悲しみは、予想をはるかに超えた」。火葬後も遺品を目に涙・涙…。酒に浸り、親しい人に「自死できないから生きている」と漏らした。ただ、盛大な葬儀を嫌った昭子さんの遺志もあり、訃報をしばらく公にせず、「正月休み明け」から働いた。「無理にでも仕事に打ち込み、妻のことを考えまいとした」

研究・診療にも実績
 大阪市に生まれた垣添さんは小学生の時、父親の転勤に伴い都内に引っ越した。大都市周辺にも豊かな自然が残っていた時代。「生き物への関心が高じて医者を志した」と回想する。東京大医学部では泌尿器科を専攻。病院勤務などを経て、35歳から国立がんセンターに勤めた。「研究と診療、両方できるのが魅力だった」。ぼうこうがんの患者の腸を利用した「新ぼうこう形成手術」は当時の世界最先端医療。尿道の短い女性には不適ともいわれたが、海外の研究者の協力も得て“世界初”の成功を果たしている。

 だが50歳で、国立がんセンター中央病院の院長に就いた頃から、管理業務に膨大な時間を取られた。「結果、自分の研究が道半ばになったのは残念」。最先端医療を担う施設の管理・運営には、「研究や診療と同等の価値がある」と切り替えた。02年春からは同センター総長。07年春の定年退職に伴い、同センター名誉総長となり、公益財団法人日本対がん協会の会長に就任している。1958年設立の同協会は「日本最大のがん検診機関」。垣添さん自身は50代以降、2度がんを患ったが、どちらも早期発見とあって、手術後すぐ仕事に復帰した。

 最も多く検診の対象になる胃・肺・大腸・乳・子宮頸(けい)の五つのがんは「早期なら、ほとんどは『意外』と驚かれるほどあっさり治る」。それだけに、がん検診の受診率の低さを憂える。「(日本全体の平均で)50%に届いていないでしょう。詳細が把握されていないのも問題だ」。厚生労働省の調査では13年、日本人のがんによる死者は36万人を超えた。3人に1人近くはがんで亡くなるというデータ。生涯のうち2人に1人は、がんにかかるともいわれる。垣添さんは言葉に力を込める。「検診の普及が進めば、がんによる死は間違いなく減ります」

“夫婦展で区切り
 「妻の場合は(亡くなる前年の検査では)たった6ミリの大きさでした」。昭子さんも2度、がんを治した上、定期検査を欠かさなかっただけに、初めは「必ず治る」という夫の説明にうなずいていたという。現代の医療の限界をあらためて痛感した垣添さんだが、3カ月ほどで深酒をやめ、懸命に生活を立て直した。死別から1年後、好んで絵筆を握った昭子さんとの“夫婦展”を開催し、「少しは気持ちに区切りがついたかな」。

 妻の闘病、自らの心情を文章につづるのも「私自身の癒やしになった」。書きためた文章は中学・高校の同級生だった作家・嵐山光三郎の後押しを得て、「妻を看取る日〜国立がんセンター名誉総長の喪失と再生の記録」(09年・新潮社)として出版され、後に文庫化されている。家族として経験した「がんの在宅医療・在宅死」や遺族の悲しみを癒やす「グリーフ・ケア」にも関心が高い今、こう語る。「患者や家族、そして遺族の心に寄り添うのも、医療者の大事な役目です」

無料相談の充実を
 日本対がん協会は予防や検診推進の啓発活動、研究助成などに加え、専門医らによる無料相談も行っている。自らも毎月、面接相談の担当医を務める垣添さん。余命宣告を受けた患者を迎えることも珍しくない。「一人の人間として“人生の身じまい”について、お話しする時もあります」。看護師などの資格を持つ相談員が電話を受ける「がん相談ホットライン」については「将来、24時間体制を実現したい」と意欲を見せる。協会の財源は、多くが企業や個人からの寄付金だ。「協会の伝道師役」も自任するだけに、講演などで各地に出向き、活動への理解と支援を呼び掛ける。

 今、一人暮らしの垣添さんは「既に遺言書をしたためている」と話す。協会などに全財産を寄付する「遺贈」を明記した内容だ。「がん征圧は道半ば。天国の妻も遺贈に賛成してくれていると思います」


無料面接相談に臨む垣添さん
◆がん無料相談◆
 日本対がん協会の、がん専門医による無料面接・電話相談は要事前予約。月曜〜金曜日(祝日除く)の午前10時〜午後5時に予約受け付け。面接相談の場所は同協会西銀座分室(西銀座デパート1階、地下鉄銀座駅直結)。1人30分間。電話相談は1人20分間。予約・問い合わせは Tel.03・3562・8015

◆がん相談ホットライン◆
 看護師や社会福祉士などの国家資格を持つ相談員が随時、電話相談を受け付ける。時間は1人20分間。祝日を除く毎日午前10時〜午後6時。Tel.03・3562・7830
【日本対がん協会ホームページ】
 http://www.jcancer.jp/

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