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  東京版 平成27年4月下旬号  
生身の魅力 舞台で追求  女優・渡辺美佐子さん

「今という時代に向き合い、新しい戯曲を生み出す作家の言葉。それを観客に伝えるのが俳優の役目」と話す渡辺さん。長年の舞台の功績に対して、このほど第40回菊田一夫演劇賞特別賞を受賞した。夏には朗読公演、秋には劇作家・坂手洋二の新作に出演予定と意欲的だ。「過去のよいことばかりに浸るよりも今、これから先によいことが待っていると考えたい」
5月、「リア王」役のファイナル公演
 「信じるのは観客の拍手。生身の魅力を追求したい」。女優の渡辺美佐子さん(82)は、“今”という時代を意識し、舞台に立ち続ける。代表作の一人芝居「化粧 二幕」は28年間で648回上演(2010年に終幕)。原爆の悲劇を語り継ぐ朗読も30年続く。5月には座・高円寺で、“最後”のリア王役。力強く壮大な言葉を頼りに、老王リアの心の内に迫る。「人生のどん底で自分と向き合った老王リア。たとえ絶望しても、目の前に希望があると信じたい」

 震災の記憶を風化させない—。ことし3月11日、渡辺さんは杉並区の防災行事で原発事故に苦しむ避難住民の“声”を伝えた。ライフワークの朗読活動は、小学校時代の親友の死がきっかけだ。「東京出身の私は終戦の年の5月から8月まで長野へ。親友は祖母が住む広島に疎開し、原爆の直撃で亡くなっていた。戦後35年の80年、友の両親と再会し初めてその事実を知った」

 演出家の木村光一からも誘われ85年、原爆の悲惨さを訴える朗読劇を開始。07年に木村が主宰する演劇制作体「地人会」解散後も女優仲間と朗読公演「夏の雲は忘れない」を継続。今夏も全国各地で公演を予定している。

 渡辺さん自身には、戦禍を免れた都内の実家を米軍に接収された記憶がある。家族は無事で敗残兵の兄たちも生還したが、戦勝国の兵士と1カ月の同居。悔しさと飢えの生活の末、家を手放し家族で三鷹へ移った。「私たちほどいろいろな経験をした世代もない。命に関わる問題が身近にある時代でした」

軸足は舞台に
 渡辺さんは俳優座養成所を経て女優の道へ。読書好きで「すぐ物語に入り込んじゃう」。楽天家の母の影響もあり、「失敗しても思いつめない性格。『次があるさ』って」。「果しなき欲望」(58)や「舟を編む」(13)など映画出演は100本を超えるが、役者としての軸足は舞台に置くという。

 「演劇の魅力はライブ。生身の観客と役者が相対する空間です。今は何でも機械化が進む時代。恋人同士で喫茶店に入っても、それぞれが自分の携帯電話を夢中で触っている。世界があまりにも狭いんです。芝居ほど原始的なコミュニケーションもないけれど、だからこそ生身同士という時間が必要になる」

自らに“宿題課す
 舞台一回一回で変わる演技や反応、劇場を満たす空気…。「私が信じるのは観客の拍手。その音を聞けば、今日の芝居が受け入れられたかどうかが分かる」。中でも井上ひさし作の「化粧 二幕」は渡辺さんの代表作だ。女座長の母子の絆を描いた一人芝居の名作。82年の初演以来、28年間で648回を上演し海外でも好評を博した。再演の秘けつは、自らに課す“宿題”だという。「振り付けや内面の見せ方。毎回新しい課題を考えないと、飽きちゃうから(笑)」

 芝居では言葉が柱になるという。「漢字と平仮名の組み合わせから成る日本語は特殊。語彙(ごい)が豊富で深みがある。例えば『春爛漫』と表現すればパッとイメージできるのに『はるらんまん』では伝わらない。長い付き合いの木村光一さんには『美佐子さん、その漢字が聞こえないよ。漢字が持つイメージを観客に届けて』とよく駄目出しされました」

 13年の初演以来、3度目となる「リア」も言葉の力が鍵を握る三人芝居だ。原作はシェークスピアの四大悲劇の一つ。登場人物が多く複雑に絡み合う原作を、演出家の佐藤信がシンプルなリアの物語に構成した。「化粧」の終幕も飾った座・高円寺の舞台で今回、「リア」の最終公演を迎える。「世間知らずの老人が、かんしゃくを起こしたことで大事な娘と立場も失う。しかし、人生のどん底で自分の愚かさに気づき、そこから立ち直ろうとする姿も描きます」

 同作は渡辺さんにとって初めてのシェークスピア作品であり初の男役挑戦。力強いせりふが並ぶ物語の壮大さを体験したと同時に、リアの内面を探る役作りによって自然と老王の言葉が出せるようになったとも。「天と地と人間と獣の時代。風が吹き嵐になれば、その中で自分を見つめる。いつも天を向き、自分と相対するスケールの大きな世界があった。だからこそ人間同士の情は深いし血の関係も濃い。自分の気位の高さを捨てて一から出直すという気持ちが持てれば、再び心を取り戻せると思う。壮大な言葉が味わえる希望と再生の物語です」

亡き夫から学ぶ
 「人生は出会い。家族も巡り合わせ」。18年前、夫の大病を機に渡辺さんの意識は変わった。昨秋亡くなった夫の大山勝美は「ふぞろいの林檎たち」などを手掛けたテレビプロデューサー。「お互い仕事人間でしたが、体にいい食事を作ったり気分を和ませたり。人と人とのつながりの大切さを痛感し、ご縁の不思議を見直した。周囲にも『優しくなった』と言われましたね」

 そして、自身の経験から日常生活での“言葉の活用”を勧める。「身近にいる人のよいところを探しましょう。嫌なところは目をつぶり、よいところを大きな声で褒めることが大事。言葉で伝えられると相手もすごくうれしい。いつも感謝の気持ちを持っていれば自分の顔も穏やかになるし、相手との関係も変わりますよ」


「座・高円寺提供 撮影=宮内勝」
座・高円寺レパートリー  「リア」ファイナル公演
 5月22日(金)〜31日(日)、座・高円寺1(JR高円寺駅徒歩5分)で。全9回公演。

 原作:W・シェークスピア、翻訳:小田島雄志、構成・演出:佐藤信、出演:渡辺美佐子、植本潤、田中壮太郎。

 全席指定、昼公演(午後2時)4000円、夜公演(同7時)3500円。チケットボックス Tel.03・3223・7300

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