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  東京版 平成27年7月下旬号  
戦争反対は“心の叫び”  映画「ソ満国境 15歳の夏」原作者・田原和夫さん

田原さんは小学5年生の時、父親の故郷の広島市に転校したが、終戦の年の春、旧満州に呼び戻された。終戦後、一家は原爆が投下された広島への帰郷を断念。現在、横浜市に住む田原さんは「旧満州と広島、私は2度、故郷を失ったようなものです」と話す
 戦争反対、それは15歳の記憶から噴き出す心の叫び—。終戦直前、当時のソ連・満州国境に置き去りにされた田原和夫さん(85)は、集団逃避行の記録を著書にまとめ、戦後70年の今も“語り部”をめる。命を落とした級友、飢えの極限で受けた善意、悲劇の責任を取らない大人…。「人間の美しさと醜さの双方が身に染みた」と話す。田原さんの著書が原作の劇映画「ソ満国境 15歳の夏」は8月1日からの公開だ。“3・11後”の日本を重ね合わせた内容に「感心した」と笑みを見せる。「私たちの体験も見事に再現されています」

「平和の要は歴史認識」
 終戦から2カ月余り後の1945(昭和20)年10月20日、旧満州国の首都として「新京」と呼ばれた長春に旧制新京一中の3年生100人余りが戻ってきた。300キロを超す逃避行中は、「親の元へ帰りたい一心だった」。ひどく衰弱していた田原さんの枕元に、母親はすしやお汁粉といった息子の好物を運んだ。後に母親の真意を知った。「母は医者から『もう(私の命は)駄目だ』と言われ、泣きながら(料理を)作ったそうです」。田原さんは命を取り留めたものの、「4人の級友は生きて親元に帰ることもできませんでした」。

 中国・北京に生まれ、旧満州に育った田原さん。終戦の年の5月末、級友らと共に、ソ連軍の陣地を間近に望む「東寧報国農場」に送られた。7月までの勤労動員のはずが、突然の期間延長。8月9日、ソ連軍の侵攻に驚き、農場から逃げた。戦闘機の機銃掃射、戦車の地響き…。守ってくれると信じていた関東軍の応戦は目にしなかった。関東軍は既に防衛線を後退させており、「私たちは『捨て石』にされたわけです」。

 やっとたどり着いた東寧駅では「最後の避難列車は出た」との情報。終戦を知った直後、ソ連軍に捕まった。50日余りの収容所生活で直面したのは、ひどい飢え。「さすがに死を意識しました」

 解放された日の夕方遅く、多くが寒さに凍え、飢えと疲労で動けなくなった。「そこは現在の石岩鎮(せきがんちん)でした」。食料も十分にない寒村に見えたが、住民は100人を超す生徒を各戸に泊め、温かい食事を振る舞った。田原さんと当時の級友らは91年、その地を再訪している。46年ぶりの再会で、こう言われた。「困った人を助けるのは当たり前です」。田原さんは言葉に力を込める。「日本人には虐げられていたはず。それなのに恨み言の一つもなく救ってくれ、恩を着せることもなかった」

 46年秋、日本に引き揚げた田原さんは、東京大を卒業後、長くビジネスの世界で活躍した。ただ、多忙な中でも逃避行後に湧いた疑念が頭を離れることはなかったという。「誰が動員を決めたのか…、置き去りの理由は…」。級友、引率の恩師らは進んで証言した半面、口を濁す人も少なくなかった。会社の仕事が一段落した60代半ばから執筆に時間を費やし、「ソ満国境・15歳の夏」(98年発行)を著している。調査で分かった事実や当時の情勢分析も織り込んだ。ただ、田原さんは「解明されていない点は今なお多い」と明言する。“解明を阻む壁”として「官僚の無責任性」を挙げた。「都合の悪い事実を隠し保身を図る。当時の軍も官僚システムの一つです」

“3・11後と類似
 福島第一原発事故の後、田原さんは政府や電力業界に「戦時下に似た無責任性を感じる」と言う。著書の映画化を構想した監督・松島哲也への協力を惜しまなかった。「彼は戦争と原発事故、二つの問題を重ね合わせ、今日的な意義のある作品にしてくれた」。映画は「3・11」の後、福島の中学生たちが石岩鎮を訪ねるという設定だ。劇中の逃避行の場面には田原さん自身、胸を詰まらせた。「70年前の出来事が鮮烈によみがえってきた」

 同作は反日デモのため、ロケがいったん中止になるなど、曲折を経て完成した。中国との草の根交流を重ねる田原さんは「政治の思惑を超えた人の絆は、簡単には絶たれない」と話す。ただ、施政者の歴史認識を“平和の要”と考え、安倍首相の「戦後70年談話」に注目する。「過去を直視する言葉がなければ、日本は著しく国益を損ないかねない」。非戦の誓いを口にする政治家や官僚に「言動に責任を持つ覚悟」を求める。“戦中派”として自身の覚悟も語った。「生ある限り体験を伝える。私の『戦争反対』は、骨肉に刻み込まれた深手のうずきといってもいいのです」


©「ソ満国境 15歳の夏」製作委員会
「ソ満国境 15歳の夏」  日本映画
 東日本大震災から1年後。福島の中学校の放送部員たちは津波で機材を流され、作品製作ができない状況に落ち込んでいた。そんなある日、中国黒竜江省の村から「撮影依頼」が舞い込む。期待と不安を胸に中国に渡った生徒たちは、村の長老の話を聞いた。それは昭和20年の夏、自分たちと同じ15歳の少年120人が強いられた過酷な体験だった—。

 原作:田原和夫、監督:松島哲也、出演:田中泯、夏八木勲ほか。94分。

 8月1日(土)から、新宿ケイズシネマ(Tel.03・3352・2471)で上映。
原作の単行本は築地書館(株)から発行。2592円。同社 Tel.03・3542・3731

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