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  東京版 平成30年3月下旬号  
小説の“自由”を探究  文筆家・松浦寿輝さん

松浦さんはパリの老舗カフェ「ドゥマゴ」をパリ留学のころから何度も訪れている。1月31日には、「Bunkamuraドゥマゴ文学賞」受賞を記念し、パリで「いま、小説を書くとは何か?」の演題の下、講演した。「ドゥマゴになじみがあった私にとって、受賞はとてもうれしいことです」=Bunkamura(渋谷区)内のレストラン「ドゥ マゴ パリ」で。同店はパリの「ドゥマゴ」の海外唯一の業務提携店
著書「名誉と恍惚」がBunkamuraドゥマゴ文学賞受賞
 東京大学大学院教授を自ら辞し、小説や評論の執筆活動に専念する松浦寿輝(ひさき)さん(64)は、「小説には“何でもあり”の自由がある」と話す。しかし、「自由はつらいです(笑)」。論文とは違い、「想像力の羽ばたきを要するのが小説の仕事。刺激的で面白い半面、難しさもある」と言い添える。「Bunkamuraドゥマゴ文学賞」に輝いた「名誉と恍惚(こうこつ)」は、1930年代後半の上海が舞台の長編小説。創作の意図をこう語る。「日本が(第2次世界大戦で)破滅に至った要因を小説の形で探りました」

 小説、評論のほか、詩やエッセーも。近代フランス文学を出発点に研究を重ねてきた松浦さんのペンは、実に多岐にわたる。「僕は飽きっぽいのかな?」と笑みを見せながらも、「一貫して関心があるのは『近代の始まり』ともいえる19世紀後半と、それ以降」。日本の近・現代にも造詣が深い。2014年には、毎日芸術賞特別賞を受賞した評論「明治の表象空間」を著している。警察・軍組織の発足・変遷をたどり、近代日本の成り立ちを検証した一冊。小説である「名誉と恍惚」をその続編に位置付ける。「事実の客観的分析だけでは見えないものが、フィクションの形を取ることであぶり出せるのでは…。一種の思考実験に挑みました」

  台東区に生まれた松浦さんは、東京大学教養学部を卒業後、同大学大学院でフランス語とフランス文学を専攻。さらに、パリ第Ⅲ大学に留学した。帰国してからは母校などの教壇に立つ傍ら、吉田秀和賞受賞作の「エッフェル塔試論」(95年)や三島由紀夫賞を受賞した「折口信夫論」(同)などを発表。詩人としての活動も並行し、「冬の本」(87年)で高見順賞、「吃水(きっすい)都市」(08年)では萩原朔太郎賞に輝いている。

“路地裏の記憶
 一方、小説の執筆は、「40代から」。厳密なルールに縛られる論文の執筆を続けるうち、「散文の創作を通して僕自身の根っこを見つめ直したくなった」と振り返る。「下町のみそ屋のせがれ」を自認する松浦さんは言葉を継ぐ。「それは“路地裏の記憶”ともいえる心象風景です」。96年に短編集「もののたはむれ」を発行。その後、「テーマを広げ、(作品の)長さを延ばしていった」と語る。00年には、現実と虚構の間をさまよう男性の視点に立った「花腐(はなくた)し」で芥川龍之介賞、05年には孤独な中年男性と謎めいた女性との暮らしを描いた「半島」で読売文学賞を受賞した。一方、NHKがアニメ化した「川の光」(07年)は、ネズミ一家が旅に出る冒険物語。その続編を含め、今も幅広い世代に愛読されている。

 12年には、定年を待たずに東京大学大学院教授を辞職。一つの作風にとどまらない創作の苦楽をこう語る。「何をどう書いても良いという“神のごとき自由”がある。しかし、その自由は、何をどう書いて良いか分からず、途方に暮れる恐ろしさと背中合わせです」


「名誉と恍惚」
(新潮社・5400円)
“魔都の逃亡劇
 14年から筆を執った「名誉と恍惚」は、日中戦争が始まった1937年から38年の物語。舞台の中心は退廃と暴力、エロチシズムが渦巻く“魔都”上海の共同租界だ。警察官だった芹沢は、陸軍参謀本部少佐・嘉山の策略にはまり、犯罪者として追われる身となってしまう。そして、芹沢の運命を左右するさまざまな登場人物。闇社会の頭目、その美しい第3夫人、ひそかにエロチックな人形を作る老人、亡命ロシア人の男色の美少年…。松浦さんは「“下半身”を排除すると、この小説には厚みがなくなってしまう」とよどみない。“下半身”の意味を解説する。「性的なもの、血なまぐさいもの…、人間の心奥に関わる要素です」。原稿用紙約1300枚の大作だが、「理屈抜きで楽しんでもらえる作品にできた」と話す。筒井康隆が激賞するなど反響は大きく、昨秋には「第53回谷崎潤一郎賞」と「第27回Bunkamuraドゥマゴ文学賞」をダブル受賞。ドゥマゴ文学賞の選考委員を務めた評論家・作家の川本三郎は、こう評した。「エンターテインメントの持ち味である物語の豊かさと、純文学の核心である個の追究が見事に溶け合っている」

 松浦さんは戦争による「日本の破滅」に“学者の目”を向ける。「37年辺りなら、中国から日本軍が引き揚げる決断はあり得たと思う」。ラストシーン近くの芹沢と嘉山の激論では、「日本が愚かな戦争に突き進んだ要因を僕なりに浮かび上がらせた」と語る。さらに、「(執筆時に)考えていた以上に現代を照射する作品になった」。難民排斥、国家主義の台頭、言論抑圧の強化…。日本や欧米各国を覆いつつある“空気の流れ”を憂慮し、複雑な心境を明かす。「そこを褒めていただいても、素直に喜ぶ気にはなれません」

新作小説を連載
 「名誉と恍惚」を書き終えてから、「少し虚脱感があった」と苦笑するが、昨秋から新作小説「人外(にんがい)」を月間文芸誌「群像」(講談社)に連載する。「『人外』は一種のファンタジー。『名誉と恍惚』とは趣が違う」。今月、64歳になった松浦さんは「体力と知力は少しずつ衰えてくるはず」と言いながらも、「あと何冊かは形にしたい」と意欲を見せる。「いずれ『名誉と恍惚』に匹敵する大作を書きたいという気持ちは『なきにしもあらず』です(笑)」

【Bunkamura ドゥマゴ文学賞】 
 パリの老舗カフェ「ドゥマゴ」が主催する「ドゥマゴ賞」の先進性と独創性にならい、1990年に「Bunkamura」が創設した。「権威主義に陥らず、既成の概念にとらわれることなく、新しい文学の可能性を常に探る」としている。受賞作は毎年、「ひとりの選考委員」によって選ばれる。

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