|
|
コントラバスで「無伴奏の世界」 コントラバス奏者・幣隆太朗さん |
|
|
|
幣さんは、ベルリン・フィルの元首席奏者が演奏していたという、1670年製コントラバスの名器「ブゼット」を日本の製薬会社から貸与されているが、今回のコンサートでは240年ほど前にイタリアで作られた、幣さん所有の名器「パロッタ」=写真=で演奏する。「ブゼットは通常のコントラバスの全長より大きく、指の動きがアクロバティックなソロ演奏には不向きなんです」 |
7月の公演で独奏に挑戦
「楽器とそれを演奏する演奏者の能力を極限にまで引き出す」といわれるクラシック音楽の無伴奏の曲—。7月6日、東京文化会館小ホールで催される「第3回無伴奏の世界」でコントラバスの名手、幣隆太朗(へい・りゅうたろう)さん(43)がコントラバス1本で無伴奏の曲に挑戦する。バイオリンやチェロなどの楽器で演奏されることが多いJ.S.バッハ「無伴奏チェロ組曲第1番」などの名曲をソロ演奏する幣さん。「癒やされるような深い低弦の響きがコントラバスの魅力。体全体が震えるような音楽をぜひ、味わってほしい」
「約2時間もの間、一人で演奏するというのはすごくスリリングですね」。ドイツの名門、SWR交響楽団(旧シュツットガルト放送交響楽団)を中心に活動している幣さんだが、コントラバス1本で行う演奏会は初めて。「ピアノ伴奏があると相乗効果で1プラス1が3にも4にもなります。それが一人ですから、演奏会の良しあしは全て自分の責任です」
オーケストラの重低音を担い、アンサンブルの陰の立役者といわれるコントラバス。その構造はチェロ、ビオラ、バイオリンとほぼ同じだが、弦楽器の中では最も大きく、クラシックやジャズなどさまざまな音楽シーンにおいて低音でアンサンブルを支えるという役割を担うことが多い。しかし、幣さんは「最近になって、コントラバスの可能性を求めて多くの作曲家がコントラバスのための曲を書いているんです」と話す。バッハやベートーベン、ブラームスの生きた時代は、コントラバスがソロ楽器として扱われていなかったが、「メロディーを奏でる楽器」として注目されるようになり今後、ソロ楽器としてコントラバスの活躍の場は広がっていくと予想している。
今回の公演で取り上げるプログラムでも、バッハの「無伴奏チェロ組曲第1番」を除くと、コントラバスのために作曲された作品ばかり。「一般的になじみのない曲ばかりですが、ソロ楽器としてのコントラバスの魅力が感じられる名曲を選びました。必ず、満足していただけるものと思っています」
幣さんはSWR交響楽団の団員としてシュツットガルトに住み、ドイツ国内外で演奏するほか、リサイタルや数々の音楽祭に参加。室内楽で小菅優(ピアノ)や樫本大進(バイオリン)、セバスティアン・ジャコー(フルート)など、著名なソリストと共演している。日本では毎夏、リサイタルツアーを行うほか、サイトウ・キネン・オーケストラのメンバーとして公演に参加している。
「聴くものを捉えて離さない」とその演奏力が高く評される幣さんは神戸市で生まれ、父が広島交響楽団のコントラバス奏者、母が大阪フィルハーモニー交響楽団のバイオリニストという音楽一家に育つ。コントラバスを始めたのは10歳のときだった。父が「きょうからこの楽器を弾きなさい」と、ピッコロコントラバス(子ども向けサイズのコントラバス)を持ってきたのがきっかけ。「そのとき僕の選択肢に『いいえ』というのはありませんでしたが、次第に自分の音楽を表現する楽器としてコントラバスを愛するようになりました」
バッハの癒やし
18歳になって東京藝術大学に進学し、東京で一人暮らしを始めた。そのころの幣さんにとって特に思い入れの深い曲が、バッハ「無伴奏チェロ組曲」だ。「初めての一人暮らしということもあって、自分の将来のこととかですごく思い悩んでいた」。そういう時期に友人にすすめられて聞いたのが、ヨーヨー・マが演奏するバッハのチェロ組曲だった。世界的なチェリストが演奏するバッハの曲を何度も繰り返し聞いて「心が癒やされる思いだった」という幣さん。それ以来、「コントラバスで同じような感動を伝えることができたら」と考えるようになった。
その後、東京藝大からドイツに留学するのも父がすすめてくれたからだった。「父からドイツのオーケストラのすごさをよく聞かされていたので、身近に感じていました」。ドイツでは父の知り合いだったコントラバス奏者のレジェンド、文屋充徳に師事する。
クラシック音楽の本場、ドイツを拠点にキャリアを積んできた幣さん。「これからは音楽の技術はもちろんですが、内面的な深さをより磨いていきたい」と話す。昨年2人目の子どもが誕生して以来、キャリアアップを目指したいという気持ちから「自分の中で、どこまで芸術性を深めていけるのか、ということに興味が強くなってきている」。そんな幣さんの“音楽の深さ”が試されるのが、今回のプログラムでラストを飾る曲、バッハの「無伴奏チェロ組曲第1番」だ。今も「神様の音楽だと思っている」と話す同曲は、ヨーヨー・マの演奏が自らの理想としてあるため、これまで聴衆の前では演奏してこなかったが、今回の演奏会で初めて披露する。「これまで音楽の素晴らしさを人に伝えようと精進してきました。だからこそ、今回のようなコントラバス独奏の機会をいただけたんだと思っています」と話し、今までの経験や技術を駆使し、「全身全霊で演奏会に臨む」。 |
♪第3回無伴奏の世界 〜コントラバス 幣隆太朗〜
7月6日(土)午後2時、東京文化会館(JR上野駅徒歩1分)小ホールで。
予定曲は、西田由美子「転生」、細川俊夫「唄(ばい)」、一柳慧「空間の生成」、平川加恵「さくらさくら変奏曲」、テッポ・ハウタ=アホ「カデンツァ」、ジュリアン・ツビンデン「バッハに捧ぐ」、エミール・タバコフ「コントラバスの動機」、ペトリス・バスクス「バス・トリップ」、J.S.バッハ「無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調」。
全席自由。一般4400円、学生2200円。問い合わせはミリオンコンサート協会 Tel.03・3501・5638 |
|
| |
|